育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

2021-01-01から1年間の記事一覧

カリフォルニアの競走馬における脛骨完全骨折の特徴(Samolら2021年)

競走馬の脛骨骨折は、ほとんどが粉砕骨折で、内固定による整復や支持を行うことが困難で予後不良と判断されるケースが非常に多い骨折です。 この骨折部位は、疲労骨折もよく発生することが知られています。疲労骨折の特徴は、競走馬としてキャリアの浅い、デ…

近位指節間関節後面の骨軟骨片の関節鏡下摘出4頭(Radcliffeら2008)

近位指節間関節は、第一指骨と第二指骨の関節で、繫関節とも呼ばれます。 掌側には、反軸側には浅屈腱が付着し、軸側には掌側靱帯などが付着しています。また、第一指骨側に関節包が大きく付着しています。 この関節内の骨片は跛行の原因となることがあり、…

橈側手根骨遠位の軟骨下骨透過像に関連するX線と関節鏡所見(Dabareinerら1996)

腕節構成骨は、激しい運動による軟骨および骨への損傷が蓄積することで骨折が起こります。 しかし、必ずしも大きな骨片骨折や盤状骨折が起きるわけではなく、軟骨や軟骨下骨への損傷がわずかな骨片骨折や軟骨破片となることがあります。 特に橈側手根骨や第…

第三中手骨遠位掌側の疲労骨折(Shanら2021年)

ひどい捻挫か?球節炎か?と思うような症例のなかには、第三中手骨遠位掌側における横方向の疲労骨折が発生している可能性があります。 関連する過去記事はこちら equine-reports.work (adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({}); この疾患は、初診…

スタンダードブレッド競走馬における第三手根骨軟骨下骨透過像(Rossら1989)

第三手根骨のスカイビュー像における骨硬化と透過像について評価した文献。 選ばれた症例は、手根中央関節を原因とする急性跛行を呈したスタンダードブレッド競走馬。 関節鏡視下での評価が行われ、骨折へと進行する病態があることがわかった。必要であれば…

近位足根間関節の骨軟骨片に対する関節鏡視下除去手術(Espinosa-Murら2018)

飛節のうち、近位足根間関節に見つかる骨片の臨床的意義は依然として不明ですが、関節鏡手術によって除去できることが報告されています。 この骨軟骨片があることが関節炎の原因となるかは不明ですので、必ず骨片を摘出する必要があるとはいえませんが、最小…

馬胃潰瘍の治療における2つの用量の比較(Sykesら2014)

現在、馬胃潰瘍症候群に対する薬物治療の主軸を担うのは、胃酸分泌抑制効果を持つオメプラゾール(商品名ではガストロガードなど)です。 この薬剤による胃酸分泌抑制効果は、低用量でも確認されていて、予防的な効果を期待して低用量投与がなされることもあ…

調教中のスタンダードブレッド競走馬における胃潰瘍所見率と年齢と性別の関連

サラブレッドだけでなく、スタンダードブレッド競走馬にも胃潰瘍はよくみられることが報告されています。 文献のハイライト 調教しているスタンダードブレッド競走馬では、胃潰瘍の所見率が87%と非常に高いことがわかりました。 年齢別にみると、2歳馬のほ…

サラブレッド競走馬における無腺部胃潰瘍の横断的研究(Vatistas1999)

調教しているサラブレッドのほとんどが胃潰瘍を持っていることはこれまでに多くの調査で明らかとなってきています。では、その具体的な影響はどうでしょうか。 この調査では、調教しているサラブレッド競走馬において、82%が胃内視鏡検査で胃潰瘍病変が確認…

症状がある馬とない馬の胃内視鏡所見の比較(Murrayら1989)

さまざまな年齢の馬を調査したところ、胃粘膜潰瘍の所見率と病変のグレードは、症状がある馬の方が高いことがあきらかとなりました。 レースに向けたトレーニングをしている馬とトレーニングしていない馬を比較すると、トレーニングしている馬の方が所見率と…

調教中の馬におけるオメプラゾールによる胃潰瘍症候群の予防的治療(Masonら2019)

PRISMAのガイドラインに基づいて、過去の文献検索を行い、メタ解析を行った調査があります。377報から7報を選択し、研究に組み入れました。 ここでは、馬の胃潰瘍治療に最も多く用いられているプロトンポンプ阻害薬であるオメプラゾールについて、これを予防…

競走馬の胃の病変に関わる要素(Murrayら1996)

現役サラブレッド競走馬に関する胃潰瘍の調査をまとめた報告があります。 この調査では、調教中のサラブレッド競走馬では、93%に胃潰瘍病変が認められました。性別、年齢、抗炎症薬などの投薬歴では差が見られず、直近2ヵ月の出走の有無が病変グレードと関…

競走馬の胃潰瘍の所見率と発生分布(Beggら2003年)

馬の胃潰瘍は、競走馬のほとんどにみられる疾患であることが、数々の調査で判明しています。 今回紹介する文献では、345頭(うちサラブレッド331頭)のうち、86%で胃潰瘍がみつかったとされています。胃粘膜が損傷した状態を評価する重症度分類は、潰瘍の深…

腱損傷により引退するリスク因子を同定するための調教データの評価(Lamら2007)

競走馬が受けている調教が、どんな損傷のリスクになるかというのは非常に難しい問いです。 それぞれの馬の状態に合わせて調教を行うことが普通ですので、一貫した条件がなく、明確なリスク因子を特定することは、回顧的調査では難しいです。 香港における競…

英国競走馬の骨盤と脛骨疲労骨折にかかわる因子の症例対照研究(Verheyenら 2006年)

骨盤と脛骨の疲労骨折が診断される前の1ヵ月の調教距離は、50kmをピークに、距離が延びるほど疲労骨折のリスクが増加しました。 砂を主体としたオールウェザーコースによる調教では疲労骨折のリスクが増加しましたが、症例数が少なく解析ができませんでした…

シンチグラフィ検査を受けた馬における調教馬場と疲労骨折による跛行の解析(MacKinnonら2015)

カナダ(トロント)とアメリカ(バージニア)の馬病院で、シンチグラフィ検査を受けた馬についての調査が行われました。 疲労骨折の所見率はダート調教で23.0%、合成材コースで31.7%という結果でした。しかし、調教コースだけでなく、調教方針も骨折発生に…

レポジトリ検査で認められる副手根骨骨片の競走への影響(Davernら2019)

1歳セリで認められる腕節の副手根骨近くにみられる骨軟骨片が、将来の競走パフォーマンスに与える影響について調査した文献があります。 このX線所見は、非常にまれなもので、この文献では8年間のセリで47頭でした。ちなみに、日本の1歳セリのレポジトリ検査…

1歳馬の購買前X線検査所見が2歳時の競走パフォーマンスに与える影響(Prestonら2012)

1歳時に認められる前肢種子骨の骨増生・骨増殖体が2歳時に出走できるかどうかに影響することが明らかにされています。前肢種子骨の骨増殖体は繫靱帯脚部の付着部に形成されるもので、育成の過程で繫靱帯脚部炎を併発してしまうと、早期にデビューすることが…

ケンタッキーの1歳セリX線検査における所見率と価格との関連(Prestonら2010)

北米の大規模な1歳セリである、キーンランドセプテンバーセール1年分について、レポジトリX線検査所見、セリ前の関節鏡手術およびセリ価格についての関連が調査されています。 ここでは、球節の第一指骨の骨片があると価格が低かったという結果が示されまし…

2歳馬のトレーニングセール時にみられるX線異常所見率とパフォーマンスとの関連(Meagherら2013)

2歳トレーニングセールは、調教を積んで速く走れるようになった馬を、公開調教にて実際に走っている姿を見て購入できるセリです。 レポジトリ検査も公開されており、現時点では調教可能だが、その後に与える影響はどうか、が調査されています。 X線検査にお…

骨盤骨折が競走パフォーマンスに与える影響(Hennessyら2013年)

競走馬において、骨盤骨折は診断が難しい疾患の一つです。海外では核シンチグラフィ検査が普及しており、反応が強く出る部位において骨折が強く疑われます。骨盤骨折は、経皮もしくは経直腸超音波検査によって、骨のギャップを描出することで診断できます。…

肘関節の内側側副靱帯損傷と骨付着部炎(Dabareinerら2013)

肘関節は蝶番関節となっており、横方向の安定性は非常に高いです。それには関節の構造だけでなく、両側の側副靱帯が大きな役割を果たしています。 馬の肘関節側副靱帯損傷はまれな疾患ですが、重度の跛行を示し、負重困難となることもあります。 競技馬の4頭…

競走馬における動的な咽頭虚脱(Boyleら2006)

運動時内視鏡でしか診断できない上気道閉塞の疾患のひとつに、動的な咽頭虚脱があります。 経験的には安静時内視鏡検査において鼻腔閉塞により吸気圧を高めることで背腹方向の咽頭壁の不安定がみられることがあります。しかし、トップスピードでの走行時と比…

動的な輪状気管靱帯虚脱の診断と治療(Kellyら2015)

馬の上気道疾患は、気道が閉塞することにより運動時の換気が低下し、プアパフォーマンスに繋がると考えられています。 近年、運動時内視鏡検査が行われるようになり、上気道の様々な動的異常が判明しています。その中のひとつが輪状気管靱帯の動的な虚脱です…

腕節の内側側副靱帯損傷(Quineyら 2020)

関節の側副靱帯は、内外方向の安定性を保つ構造です。これが損傷してしまった場合、重度の跛行を呈し、場合によっては運動復帰が難しいことも多いです。 また、関節の安定化が得られるまで、長期間の運動制限が必要となります。 馬術競技馬の腕節側副靱帯損…

繫靱帯脚部のSplitには非負重時の超音波検査(Werpyら 2020)

繫靱帯脚部の評価として一般的に用いられる検査方法は超音波検査です。しかし、近年より高度な画像診断であるMRIが立位鎮静下で実施可能となり、これまで判明していなかった病態が明らかになってきました。MRIと超音波検査では画像診断装置の仕組みが違うた…

中心および第三足根骨盤状骨折の内固定術成績(Winbergら 1999年)⑤

その① はじめに equine-reports.work その② 調査の内容 equine-reports.work その③ 成績 equine-reports.work その④ 考察前半 equine-reports.work 考察 手術手技について MartinとHerthelらが1992年に報告した4.5mmハーバートスクリューによる整復方法があ…

中心および第三足根骨盤状骨折の内固定術成績(Winbergら 1999年)④

その① はじめに equine-reports.work その② 調査の内容 equine-reports.work その③ 成績 equine-reports.work 考察 病態について 筆者らの病院で行った内固定術のうち5%がこの骨折。スウェーデンではスタンダードブレッド競走馬に多くみられる。 遠位足根骨…

中心および第三足根骨盤状骨折の内固定術成績(Winbergら 1999年)③

その① equine-reports.work その② equine-reports.work 成績 臨床症状 レースや強調教後に中程度の跛行(グレードは10段階でほとんどが4-5)。発症から10-14日の期間で徐々に良化し、来診時グレード2-3であった。 身体検査 飛節の背側で熱感・疼痛あり。腫…

中心および第三足根骨盤状骨折の内固定術成績(Winbergら 1999年)②

その① equine-reports.work 症例 スウェーデンの馬病院で足根骨盤状骨折を診断し、内固定手術した20頭。 【血統と用途】 18頭はスタンダードブレッド競走馬、1頭はサラブレッド競走馬、1頭はスウェーデン温血種で馬術競技馬。 【年齢】 年齢は1-8歳で、15頭…