レビューの論文ですが、長すぎず簡潔にまとめられています。
今回はIntroductionからAetiology and fracture distributionまでを掲載します。
Open Accessのため原文はだれでも読むことができますので、ぜひご覧ください。画像がとてもわかりやすいです。
はじめに
種子骨の骨折は、サラブレッドやスタンダードブレッド競走馬において過剰な張力がかかることで起きるタイプの損傷で、重症度はごく小さいものや単純なものから重篤なものまで様々である。競走中に起きる重篤な骨折は両軸性の種子骨骨折で、繫靱帯支持装置が破綻して球節が沈下してしまう。レースで死亡や安楽死となった競走馬についてカリフォルニアで回顧的な調査が行われ、前肢の骨折は41.5%で認められ、そのうち80%は両軸性の種子骨骨折であった。ケンタッキー、フロリダ、ニューヨークのサラブレッド競走馬の調査でも同様の発生率が報告されている。しかし単純な種子骨骨折は、このような致死的な骨折よりもはるかに多くみられ、競走馬以外でも発症する。
種子骨骨折は、その形状と部位、関節にかかるかどうかで分類される。
・近位1/3以内におきる種子骨尖部骨折はほぼすべて関節性骨折で、軸外側で繫靱帯付着部の25%未満を含む。
・体中央部の骨折は中央の1/3でおき、関節性である。
・底部の骨折は遠位1/3におき、たいていは関節性である。
・軸外側の骨折は繫靱帯付着部であり、関節性または非関節性である。
・複雑な種子骨の骨折は、矢状(軸側)で複数の骨片に分かれる関節性骨折である。
・矢状(軸側)骨折は軸側面でおこり、たいていは種子骨間靱帯による裂離である。この骨折はたいてい、外側顆骨折と同時または二次的に発生する。
・複骨折は重篤な骨折に関連していて、たいていは両軸性で、開放骨折では重度の軟部組織損傷を伴う。
病因と骨折の分布
ほとんどの種子骨骨折は、レース後や高強度の運動で疲労し球節の過伸展が最大になったときにおこる。そのようなときには繫靱帯と種子骨遠位靱帯による張力は最大となり、種子骨の強度を超えてしまうことにより種子骨に損傷がおきる。骨格の成熟した馬では、調教による種子骨や繫靱帯への有意な影響が示されている。種子骨骨折は調教している馬で起きやすいが、種子骨損傷がおきるための負荷は、調教が進行するたびに大きくなる。調教していない馬では、繫靱帯の損傷がおきやすい。骨格の未成熟な当歳や1歳馬では、疲労が最大限に達したときにおき、それは当歳では親について走っているとき、1歳では集団放牧で走り回っているときにおこる。若齢では骨が比較的弱いため、繫靱帯損傷はあまりみられない。骨折には、疲労や負荷だけではなく、コンフォメーションの不整により種子骨の負荷が増大することが示唆されてきた。
種子骨骨折のタイプは、サラブレッドでもスタンダードブレッドでも競走馬では尖部骨折がとびぬけて多い。これは、尖部には他の部分に比べて血管および骨の多孔性が増えていたことに起因しているかもしれない。種子骨の他の部分の多孔性は、調教によって石灰化が起こり減少するが、尖部の石灰化は遅い。結果的に、尖部の骨密度は低く、調教が進むにつれて繫靱帯の強度が上昇することで、最大負荷時に種子骨骨折がおきてしまう。尖部骨折は、前肢よりも後肢で起きやすい。一方で、成熟したサラブレッド種では、未成熟なサラブレッドや成熟したスタンダードブレッドと比較すると前肢での発生が多かった。
体中央部の骨折は、サラブレッドでもスタンダードでもおこる。スタンダードブレッドが4歳時に多く発生していたのに対し、サラブレッドでは2-3歳時に多く発生していた。体中央部の骨折は、後肢よりも前肢におきやすく、サラブレッドでは特に右前肢に多かったと報告されている。基部および軸外側の骨折は、スタンダードよりもサラブレッドの競走馬で発生しやすく、また後肢よりも前肢のほうが多かった。
すべてのタイプの骨折を通じて、前肢におきるときには内側種子骨が最も多かった。これはおそらく、球節の内側面は、内側種子骨を含めて、外側よりも面が大きく、したがってかかる負荷も大きいからであろう。前肢は後肢よりも多くの体重を支えていて、これも大きな影響を与えていそうである。加えて、サラブレッドの競走馬は左回りばかりで競走しているため、右前の内側種子骨が損傷しやすいのは当然である。
*最後の一文は、北米の競馬場がほぼすべて左回りのコースであることを考慮していると考えられます。
次回は診断、治療、予後についてその2に続きます。