育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

種子骨骨折について その5(Schnabelら 2018年)

種子骨骨折について、本日は種子骨底部の骨折についてです。

 

Diagnosis and management of proximal sesamoid bone fractures in the horse
L. V. Schnabel W. R. Redding Equine vet. Educ. (2018) 30 (8) 450-455

 

Down‐angle oblique radiograph of the right metacarpophalangeal joint in a proximal 20° lateral to distal medial direction to highlight the basilar proximal sesamoid bone fracture on the proximal sesamoid bone furthest from the plate.
(骨折した種子骨と反対側にカセッテを置き、20度撮り下ろすと底部骨折がはっきり写る。)

 

底部骨折

過去の最も大規模な回顧的調査では57頭の底部骨折が調査され、骨片摘出を受けた馬の術後復帰率は73%で、保存療法では48%であった。この研究には多少のバイアスはあり、小さい骨片は摘出され、大きい骨片は保存療法が取られていた。他の報告では26頭の種子骨基部骨折を関節鏡で骨片除去し、復帰率は50%であった。尖部骨折と同様に、骨片のサイズと結果に有意な関係は無かった。他には、数が少なく統計的な有意差はないが、非関節性の骨片では復帰率62.5%(5/8)、関節性の骨片では25%(2/8)と非関節性の予後が良い傾向にあった。

底部骨折の関節鏡手術は仰臥位で、同側からでも反対側からでも術者の好みで可能である。基部を露出するには球節を屈曲する必要がある。尖部骨折と同様に周囲軟部組織を傷つけないように摘出することが重要で、この場合は種子骨遠位靭帯に注意する。

非関節性の底部骨片摘出には2つの新しい術式が示されている。1つは「鍵穴」方式で、これは深屈腱腱鞘から直種子骨靭帯に垂直に小さな切込みを入れて摘出する方法である。骨片の位置は直接触るよりも針をガイドにして探る。研究では、11頭、16の骨片で、全てパフォーマンスを制限するような跛行を呈し、球節領域に問題があると分かった馬が対象となった。11頭のうち競走馬は3頭で、その他はスポーツホースであった。他の種子骨骨折タイプと同様に、右前肢内側で最も多かった。フォローアップが可能であった90%(9/10)が復帰し、2頭の競走馬も含まれた。筆者が注意しておきたいのは、種子骨遠位靭帯が治癒するために、全ての馬が6ヵ月の休養とリハビリプログラムを受けたことである。イヤリングのサラブレッド7頭で、超音波を用いてアシストして非関節性骨片を摘出した報告がある。従来通りの方法で関節鏡を用いて種子骨遠位靭帯から切除し摘出可能であった。6-8か月時点のフォローアップ期間で術部の骨増生や骨片は認められなかった。