育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

繋靭帯脚炎の再生療法:血小板濃縮血漿(Castelijnsら 2011年)

繋靭帯脚炎の再生療法について、今回はPRPよりも簡便に作成できるフィルターを用いた血小板濃縮血漿の病巣内投与を行った治療成績をまとめた研究の紹介です。この研究では、フィルターで精製する簡便な血小板濃縮血漿において血小板濃度の上昇およびその生理機能である血小板成長因子放出の増加を確認しています。治療成績では低エコーの消失は全頭で認めたものの、元のレベルの運動に復帰した馬は5/11と少なかったです。超音波検査画像上での修復が良好であっても、実際に組織の機能的な修復が起きているかは別問題であるし、機能的な修復にはリハビリが重要な役割を果たすのかもしれません。


Evaluation of a filter-prepared platelet concentrate for the treatment of suspensory branch injuries in horses.

Castelijns G, Crawford A, Schaffer J, Ortolano GA, Beauregard T, Smith RK.
Vet Comp Orthop Traumatol. 2011;24(5):363-9.

”目的
馬の軟部組織損傷において、血小板濃縮血漿は治療法の1つになった。本研究はフィルターを用いた血小板濃縮血漿の作成を評価し、繋靭帯脚炎の治療法として価値があるか検討した。

方法
21頭の正常馬から55mlの静脈血液を採取し、フィルターを用いて血小板濃縮血漿を作成した。全血および血小板濃縮血漿中の白血球および血小板の濃度、血小板活性化因子(PFA)によって誘導される血小板由来成長因子BB(PDGF-BB)の放出濃度を測定した。11頭、18か所の繋靭帯脚炎の病巣内に自家の血小板濃縮血漿を投与し、1から3年の間、臨床検査および超音波検査を行った。

結果
血小板濃縮血漿は、血小板濃度が全血の6.9±1.9倍、白血球が全血の3.8±0.8倍で、有意な濃縮(P<0.0001)が確認できた。血小板濃度に性別や血統による差は認められなかった。血小板がPFA刺激により放出するPDGF-BBは基準値の100倍以上であった。3か月後の検査ですべての低エコー病変は消失した。5頭は元の運動に戻り、1頭は低いレベルで運動復帰、3頭は引退、1頭は関係ない理由で死亡、1頭は現在もリハビリ中であった。

臨床的意義
フィルターを用いた血小板濃縮血漿は簡単に確実に作成でき、繋靭帯脚炎の病巣内投与では短期的な合併症はなかった。この治療法により急速に低エコー病変および跛行は消失した。フィルターを用いて精製した血小板濃縮血漿は、繋靭帯脚炎治療の簡便な代替法に相当する。”