育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

繋靭帯脚部のパワードップラー法を用いた評価(Rabbaら 2018年)

パワードップラーは超音波ビームの角度や血管の走行角度によらない血流ドプラ信号のエネルギー積分値としてBモード画像に重ねて表示されるもので、血流の検出に優れています。ヒト医療では整形外科分野での有効な評価方法が報告されており、近年では馬でも腱・靭帯・関節などの整形外科疾患に応用した報告がなされています。検査する側からすれば、検査の標準化や再現性の向上が課題で、さらに得られた結果をどのように判断するかも今後の検討要件です。先日紹介した通り、繋靭帯脚部には低エコー病変があっても臨床症状を伴わないことがあります。パワードップラー法を用いれば、より詳しい評価ができる可能性があります。

前置きが長くなりましたが、馬の繋靭帯脚部をパワードップラー法を用いて評価した記述的研究がありますので紹介します。

 

B-mode and power Doppler ultrasonography of the equine suspensory ligament branches: A descriptive study on 13 horses.
Rabba S, Grulke S, Verwilghen D, Evrard L, Busoni V.
Vet Radiol Ultrasound. 2018 Vol.59(4):453-460.

”要約

超音波検査は馬の繋靭帯炎の診断に日常的に用いられている。ヒト医療では、腱や靭帯損傷の診断にパワードップラー超音波検査が有効であると示されてきた。本研究は前向きな先行研究で、繋靭帯脚部のパワードップラー信号の有無を評価し、跛行している場合としていない場合でBモード画像との比較を行うことを目的とした。

13頭の馬を対象とし、8頭は繋靭帯脚部の疼痛による跛行と判明していた症例、5頭は跛行のない馬とした。跛行している患肢は10肢および健常な24肢についてBモードおよびパワードップラー超音波検査を実施した。2人の検査者がパワードップラーの信号強度を独立に評価した。

Bモード画像における繋靭帯脚部の異常所見は跛行している肢だけでなく跛行のない肢でも認められた。Bモード画像で正常な繋靭帯脚部は、パワードップラーの信号は認められなかった。しかし、Bモードで異常な所見と判断した肢では跛行の有無に関わらずパワードップラーの信号がみられた。跛行している肢およびBモードで重度な所見の場合にパワードップラーの信号強度スコアは主観的ではあるが高かった。

本研究から、パワードップラーは跛行している馬の繋靭帯脚炎では追加検査として有用であることが支持された。”

 


この研究から、通常の超音波画像であるBモードで異常を認めない馬には微小血管が認められなかったこと、症状がなくても低エコー像を認めた場合には微小血管が検出されたことが明らかとなりました。このことから、症状がない場合でも低エコー像を認めるときには構造的変化が起こっていると推察されます。将来的に症状を表すものなのか知るためには、長期的な観察が必要となります。