育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

繋靭帯脚炎のパワードップラー法を用いた評価(飯森ら JRA調査研究2018年)

国内で繋靭帯脚炎についてパワードップラー法を用いた観察が1報ありますので紹介します。無症状と有症状での比較、長期的観察、損傷および血管の程度による分類がなされています。

第 60 回 競走馬に関する調査研究発表会(2018 年度)
演題番号24:超音波 B モード法とパワードプラー法を併用した繋靭帯脚炎の評価方法について(飯森ら)

演者らは、無症状でも低エコーや線維配列の不整を認める報告があること、繋靭帯脚炎の低エコー像が長期残存することがあることを踏まえ、Bモードとパワードップラー法を併用してより精度の高い繋靭帯脚炎の診断方法を確立することを目的としました。
対象としたのは無症状の80脚と有症状の7脚でした。無症状のうち低エコーは28.8%(23/80)で認められ、Ramzan らによる低エコーグレードGは1または2で、このうち3脚で微小血管が検出され、Rabbaらによる血管スコアは1が2脚、2が1脚でした。
有症状では低エコーGは2-3で、血管スコアは全て3以上でした。リハビリ後にはそれぞれ有意なグレードおよびスコアの改善が認められました。

この研究では、有症状馬ではリハビリ後に低エコーGおよび血管スコアがどちらも有意に改善していました。この併用は治癒評価に有効と考えられます。発症脚では血管スコアが全て3以上だったことから、血管浸潤の程度が発症の指標のひとつとなる可能性を示唆しています。一方で無症状の低エコー部では血管スコアが0の症例が多く(87.0%:20/23)、先日紹介した文献とは食い違っています。これは条件設定の問題かもしれません。どこまでの血流速度を拾うか、つまりシグナルの検出感度の下限をどこに設定するかによって変わりますし、機種によっても違います。そのあたりのすり合わせができるかどうかが今後の課題ですね。