育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

種子骨軸外部骨折 骨片摘出の治療成績(Southwoodら 1998年)

種子骨の軸外側は、繋靭帯脚部が付着する部分です。繋靭帯脚部に引っ張られることによって、この部分が裂離してしまいます。古い研究では種子骨骨折のうち8%と比較的発生が少ないと報告されています。症例報告の文献が少ないのはこういう理由からかもしれません。ですが、実際に診療をしているともう少し多いのではないかと感じますし、私の診療所では約2割が軸外側骨折でした。

軸外部だけでなく関節面にもかかる(尖部から軸外部にかけての)骨折では摘出術が推奨されていますが、軸外部のみの骨折では保存療法も妥当な選択肢となるとされています。一方で、骨片の癒合は脆弱なため、摘出を勧める文献もあります。

今回は軸外部または尖部から軸外部にかけた骨折を関節鏡視下で摘出した症例の治療成績に関する論文紹介です。

文献のハイライト

1頭を除き、全て内側種子骨であり、前肢内側で81%(38/47)を占めた。

軸外側のみ25頭(53%)、尖部から軸外側にかけて22頭(47%)であった。

超音波検査は10頭で実施され、全て繋靭帯炎所見を認めた。

競走馬は35頭で、術後出走率71%(25頭)、骨折以前のレベル以上に復帰した馬は46%(16頭)であった。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

目的
 種子骨軸外部骨折の関節鏡視下摘出術後の成績と骨折グレードと成績の関連を明らかにすること。

デザイン
 回顧的研究

動物
 47頭の馬

方法
 球節の背掌側または背底側像から、骨片の大きさグレード分類した。G1:15mm未満、G2:15mm以上25mm未満、G3:25mm以上と分類した。また骨折が軸外部のみ、もしくは尖部と軸外部を含むタイプに分類した。成績の評価は、意図した用途に復帰できたかどうかで決定し、競走馬は元のクラスかそれ以上の競走レベルに復帰したか、競走馬以外は満足な競技ができたかで評価した。競走馬では、出走回数、パフォーマンス指数、獲得賞金を用いてパフォーマンスを評価した。

結果
 追跡調査は41頭で可能で、35頭が競走馬、6頭は非競走馬であった。競走馬は25頭が競走復帰し、16頭は同等以上、9頭は下のクラスの競走となった。それ以外の6頭は全て競技に使えるようになった。骨片が小さく、軸外部のみの骨折は、骨片が大きく、尖部と軸外部を含む骨折と比較すると成績が良かった。

臨床的な示唆
 総じて、種子骨軸外部骨折の競走復帰の予後は良好だが、競走レベルが同等に復帰できるかは五分(fair)であった。競走馬でなければよい成績が期待できる。