育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

種子骨尖部骨折 2歳以上の場合(Schnabelら 2006年)

競走馬ではほとんどが尖部の骨折で、種子骨骨折のうち88%を占めるとされています。今回はサラブレッド競走馬での骨片摘出術の治療成績に関する論文を紹介します。

文献のハイライト

調教または競走で発症した、急性の跛行を伴う種子骨尖部骨折

術前にX線検査および超音波検査を実施

前後・左右・内外で大きな偏りなし

競走復帰率は後肢83%、前肢67%

前肢内側の骨折および繋靭帯炎の併発は競走復帰の予後に影響

 

臨床的には

術前に繋靭帯を評価することで予後に関するより詳しい判定ができそうです。
ただ心配なのは急性期の骨折は出血が多く、骨折したことによってテンションが緩んだ繋靭帯脚部を正確に診断できるか、というところです。
初診で繋靭帯にも損傷が見られた場合には、定期的に超音波検査を行って、損傷治癒をモニタリングするべきと考えます。また、骨片摘出後に骨増生を認める場合も、繋靭帯脚部の状態を確認するために超音波検査が有効です。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

研究を実施した理由
スタンダードブレッド競走馬では、種子骨尖部骨折に対する外科的摘出は最も良好な競走復帰の予後が得られると示されてきた。しかし、サラブレッドの成熟した競走馬における報告はまだない。

目的
サラブレッド競走馬における種子骨尖部骨折の発生率と関節下摘出術後の競走成績を記述すること。

方法
2歳以上のサラブレッドで、種子骨尖部骨折に対して関節鏡下摘出術を行った馬の医療記録および手術前後の競走成績を調査した。

結果
発生率は後肢で64%、前肢で36%であった。競走復帰率は前肢で67%、後肢で83%、全体で77%と前肢で低かった。前肢内側の骨折では競走復帰率は47%しかなかった。繋靭帯脚炎を併発していた馬の競走復帰率は63%であった。スタンダードブレッドでは未出走の馬では競走復帰率は低かったが、それとは異なり、サラブレッドでは術前の出走の有無は競走復帰率と関係がなかった。

結論
重度な繋靭帯炎の併発がなければ、成熟したサラブレッド競走馬において種子骨尖部骨折の関節鏡下摘出術を行うことで競走できる能力は回復できることが示された。競走復帰の予後は、後肢の骨折でexcellent(83%)、前肢の骨折でgood(67%)であった。前肢内側の骨折は最も予後が悪かった。

潜在的関連性
サラブレッド種競走馬の部位ごとの予後を明らかにすることで、種子骨尖部骨折に対する理解が深まり、関節鏡によって競走できる能力が回復する可能性があるということを獣医が馬主や調教師に話しやすくなる。