脛骨疲労骨折
脛骨疲労骨折とは
脛骨疲労骨折は、急性の跛行以外に症状を認めないことが多く、診断されていない馬が数多く存在するかもしれません。下腿部のX線検査を行い、脛骨の仮骨形成から診断できることがあり、骨折線が確認されることはまれです。疲労骨折は脛骨尾側の皮質骨によくみられます。この部位に圧迫力がかかることが原因と考えられ、常歩時には特に骨体中央に最も大きな負荷がかかるとわかっています。上腕骨および脛骨の疲労骨折は、より重篤な骨折の前段階の病変である可能性が指摘されていて、運動を継続すると致命的な骨折になりかねません。
臨床症状
脛骨疲労骨折についてまとめた症例報告はサラブレッドでは数報あり、そのなかのひとつの文献では未出走の2歳馬で最も多くみられたと報告されています。たいていは片側に跛行や仮骨の所見が認められますが、シンチグラフィ検査を行うと両側で所見が認められることがあります。跛行は数日から数週間と短期間で解消するものの、運動再開すると跛行が再発します。
診断
脛骨疲労骨折の発症部位は、近位・中位・遠位で起きうることが知られていて、特に中位と遠位が多いようです。急性跛行期にはX線検査で所見が得られない場合があり、数週間以内に再検査を行うと典型的な仮骨形成が得られることがあります。たとえ馬房内で安静にしていても大きな骨折へと進行してしまう可能性があることに注意しなければなりません。
治療と管理
診断後の管理は、4週間の馬房内休養、次の4週間には馬房内休養と引き運動、さらにその次の8週間は小パドックに放牧します。シンチグラフィ検査を用いた調査では、発症から60日後でも治癒が完了していなかったことがわかり、長期休養の必要性が明らかとなりました。
実際の症例報告
日本の育成馬における報告では、跛行の消失は初診から23-52日で、X線検査で仮骨が固まったのを確認してから運動を再開したところ、跛行の再発は認めなかったとのことでした。また、初診のX線検査で仮骨の所見が6/7で認められました。この報告では、患肢を挙上して下腿部を走行する筋肉や腱を弛緩させることにより、より詳細な下腿部の触診が可能となるテクニックが紹介されています。実際にこの触診方法を行って、脛骨尾側の骨増生・腫脹・圧痛を触知することが可能となるため、大変重要な触診方法です。
出典:脛骨尾側に疲労骨折を発症したサラブレッド種育成場の7症例 日高修平ら 北獣会誌 2017 Vol.61 109-111
参考文献
Diagnosis and management of lameness in the horse. Ross MW SJ Dyson 2010 Chap45 The crus 526-532
Stress Fractures of the Tibia and Humerus in Thoroughbred Racehorses: 99 Cases (1992-2000). Christopher B O'Sullivan, Jonathan M Lumsden J Am Vet Med Assoc. 2003 Vol.222(4):491-8.
脛骨尾側に疲労骨折を発症したサラブレッド種育成場の7症例 日高修平ら 北獣会誌 2017 Vol.61 109-111
The Application of a Scintigraphic Grading System to Equine Tibial Stress Fractures: 42 Cases. P H L Ramzan, et al. Equine Vet J. 2003 Vol.35(4):382-8.