育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

種子骨骨折とCT検査による種子骨の形態変化の定量(Cresswellら 2019年)

種子骨骨折とそれ以外の原因で安楽死処置がとられた馬の解剖体を用いて、種子骨の形状を高解像マイクロCTを用いて解析した文献を紹介します。
マイクロCTによりX線による骨の詳細な評価が可能になりました。種子骨骨折とそれ以外の種子骨を比較すると、骨の幅や骨密度は骨折している種子骨で増大していました。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

”背景
 米国の競走馬において種子骨骨折は最もよく見られる致命的な筋骨格損傷であり続けている。骨折リスクに影響する因子を明らかにすることで、スクリーニングできるようになり、致命的な損傷の発生率を下げ、動物福祉を改善できる。

目的
 種子骨骨折した肢、対側肢およびコントロールの馬の種子骨の間の形態学的な差があるかを同定すること。種子骨骨折に関連する特徴をCT検査で検出できる実現性を検討すること。仮説は「骨折する種子骨では骨密度が増加している」というものだった。

研究デザイン
 横断的、解剖体を用いた形態学的研究

方法
 ニューヨークの競馬場で安楽殺された馬16頭(種子骨骨折8頭、それ以外8頭)の種子骨を対象に、高解像マイクロCTを用いて形態学的に評価した。ロジスティック回帰モデルを設定してグラフを作成し、CTから得られた特徴が骨折とコントロールを正確に分類できるのか評価した。

結果
 体積分率は骨折群で90.39±1.76%、コントロール群で87.20±2.79%で、骨折群で有意に高い値であった(P<0.0001)。骨折群とコントロール群で有意差が認められたのは、体積分率、骨の幅、骨細管の厚みおよび異方性であった。解析では骨の体積分率と骨の幅を組み入れた場合、骨折とコントロールを分類するための曲線化面積は0.938で高い正確性が示唆された。

制限
 群ごとの頭数は少ないが、種子骨の数は十分多かった(n=62)。生体を用いたCTはできなかったが、CTによって骨の密度や幅を計測することは可能であった。

結論
 骨折群とコントロール群で種子骨に形態学的な違いが認められた。技術が進歩し、定量的なCTが可能になれば、サラブレッド種競走馬の種子骨骨折リスクを推定する臨床検査ができるようになるかもしれない。