軟口蓋が喉頭蓋軟骨よりも背側に移動し、それにより気道が狭くなると運動時の呼吸が苦しくなり、プアパフォーマンスの原因となります。また、「ゴロゴロ」という特徴的な異常呼吸音が運動時に聴取されます。内視鏡検査では、喉頭蓋軟骨の形状や軟口蓋の弛緩は判別できるものの、実際の運動時にどのように影響しているかを予測することは困難です。そこで運動時内視鏡検査が普及し、この疾患の病態が少しずつ理解されてきました。今回はトレッドミル走行中に内視鏡検査を行い、軟口蓋背側変位を診断した症例群についてまとめた初期の文献を紹介します。
”目的
競走馬の高速トレッドミル内視鏡検査における軟口蓋背側変位(DDSP)の発生率を評価し、安静時および運動時内視鏡検査所見に関連した治療効果の評価を行うこと。研究デザイン
回顧的研究。動物:92頭の競走馬(サラブレッド74頭、スタンダードブレッド18頭)方法
高速トレッドミル内視鏡検査にて軟口蓋背側変位(DDSP) と診断した92頭について、シグナルメント、履歴(病歴と競走歴)、治療、安静時および運動時の内視鏡検査動画を調査した。高速トレッドミル内視鏡検査の前後に3走以上した馬のみパフォーマンス解析に用いた。統計学的解析は、独立変数である病歴、安静時および運動時内視鏡所見とパフォーマンスについて相関を調べた。結果
45頭(49%)は単独で軟口蓋背側変位(DDSP)を発症し、他の上気道疾患を併発していた馬が35頭、嚥下時に軟口蓋背側変位が見られた馬が12頭であった。高速トレッドミル運動中に異常呼吸音は聴取されず、異常呼吸音の稟告があった馬は57頭(62%)しかいなかった。パフォーマンス解析に組み入れたのは45頭で、パフォーマンスと相関する病歴や内視鏡所見は認められなかった。軟口蓋背側変位の治療方法は獣医によって様々であった。全体としては29頭(64%)で診断・治療後の1走あたりの平均獲得賞金は改善した。結論
高速トレッドミル内視鏡検査で軟口蓋背側変位と診断したうち、35頭(38%)は異常呼吸音の履歴がなかった。また74頭(80%)は安静時内視鏡検査で構造的な異常がなかった。臨床的関連性
高速トレッドミル内視鏡検査は軟口蓋背側変位の診断に非常に有効なツールである。軟口蓋背側変位の発症は全ての馬で同様というわけではなく、他の上気道疾患が併発することも多かった。したがって、すべての軟口蓋背側変位の馬に対して単独の治療が有効というわけではない。軟口蓋背側変位に対しては内科的でも外科的でもパフォーマンスは改善した。安静時も高速トレッドミル内視鏡検査も、どちらの所見もはっきりと予後を示すものではない。”