育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

1歳馬の披裂軟骨粘膜損傷(Kellyら 2003年)

先日紹介した披裂軟骨の粘膜潰瘍がどの程度の割合で認められるのか、5年間の1歳セリにおける内視鏡検査(3312頭分!)を調査した文献を紹介します。所見率は0.63%と多くなく、追跡調査で15/19は治癒していたことから、特別予後が悪いというわけでもないです。しかし肉芽腫や披裂軟骨炎へと移行した場合が非常に厄介で、私の経験上では、すっきり治癒した症例の方が少ないです。肉芽腫や披裂軟骨炎は競走能力にも明らかに影響するため、潰瘍が治癒したかどうかの追跡調査は非常に重要と考えます。セリでこの所見を認めた場合、リスクを説明しておくことは極めて重要と考えます。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

”研究を実施した理由
 サラブレッド1歳馬における片側または両側の披裂軟骨軸側面の粘膜潰瘍および小さな肉芽腫はセリ後の内視鏡検査でみつかってきた。

目的
 披裂軟骨の粘膜潰瘍および肉芽腫を認めたサラブレッド1歳馬の所見率、内視鏡所見の特徴および結果を明らかにすること。

仮説
 1歳馬における披裂軟骨粘膜潰瘍の所見率は、他の上気道の異常に比べて比較的多い。それらの大部分は自然に治癒するが、そのうちの少ない割合で肉芽腫へと進行し、さらに少数が披裂軟骨炎へと進行する。

方法
 5年間で3312頭のサラブレッド1歳馬のセリ後の内視鏡検査を調査した。セリで公表されていた異常だけでなく、上気道閉塞に関連するとみなした異常所見を記録した。医療記録より、披裂軟骨の粘膜潰瘍および肉芽腫を認めた馬の、損傷の部位、大きさ、性別、併発する他の上気道疾患の性質を調査した。治療や追跡調査の結果、内視鏡検査所見についても記録した。

結果
 検査した1歳馬のうち、0.63%で粘膜潰瘍を認めた。これは上気道疾患のうち最も多い所見であった。追跡調査の期間で15/19は問題なく治癒し、1頭は追跡調査ができなかった。2頭は両側の粘膜損傷を認め、どちらにも肉芽腫を形成した。1頭は粘膜損傷の部位に肉芽腫を形成し、のちに披裂軟骨炎をおこした。

結論
 1歳セリにおける披裂軟骨の粘膜潰瘍は比較的多く目にする異常所見であったが、肉芽腫や披裂軟骨炎へと進行する割合は少ない。

潜在的関連性
 1歳馬セリの内視鏡検査では、披裂軟骨の、特に声帯突起の吻側辺縁には注意して評価するべきである。なぜなら粘膜潰瘍は少ない割合ではあるが肉芽腫や軟骨炎へと移行する可能性があるからである。セリ後の内視鏡検査で粘膜潰瘍を認めた場合、購買者やセリ会社に通知する正当な理由となる。罹患馬には内科的治療が考慮され、潰瘍の治癒を確かめるために内視鏡検査による追跡調査が行われる。”