育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

喉頭形成術と声嚢切除の術後成績(Hawkinsら 1997年)

喉頭形成術と声嚢切除は、左喉頭片麻痺の治療として第一選択となっています。

その手術方法に関して成績を検討した少し古い文献を紹介します。この文献では声嚢切除に関係なく喉頭形成術により成績は向上し、手術によるパフォーマンスの改善は客観的なデータからは56%、主観的な評価からは69%で認められました。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

”目的
 研究の目的は、喉頭形成術が競走パフォーマンスに与える影響を調査すること、および血統(サラブレッドとスタンダードブレッド)、喉頭機能のグレード分類、声嚢切除の有無、喉頭形成術に使った糸の種類および数が成績に影響するか明らかにすること。

研究デザイン
 1986-1993年の期間で、喉頭形成術と声嚢切除もしくは喉頭形成術のみ行った馬の回顧的研究

動物と検体
 230頭の馬で内訳はサラブレッド174頭、スタンダードブレッド56頭

方法
 競走馬もしくは出走を目指している馬について医療記録を調査した。シグナルメント、認められた症状、身体検査所見、安静時内視鏡検査の喉頭機能グレード、喉頭形成術に用いた材質と数、声嚢切除の有無および術後の合併症を記録した。

結果
 来診時に最も多くみられた症状は、上気道の異常音および運動不耐性であった。喉頭機能は、G2が2頭、G3が109頭、G4が119頭であった。喉頭形成術には、147頭で2本の2つ編みのポリエステル縫合糸を、49頭で1本の2つ編みのポリエステル縫合糸を、34頭で1本の2つ編みのナイロン縫合糸を使用した。入院中にみられた合併症で最も多かったのは発咳で、50頭で認めた。電話による追跡調査は176頭で行い、168頭のうち、術後の異常呼吸音は126頭で減少、28頭で変化なし、14頭で悪化した。退院後、166頭中43頭で発咳がみられ、26頭で鼻汁が見られた。167頭の競走パフォーマンスは主観的に評価して69%で改善が見られた。全体としては馬主の手術満足度は81%であった。230頭のうち、178頭は術後に1回以上出走した。全体としては117頭が術前および術後に3回以上出走し、65頭で競走パフォーマンスの指数は向上した。手術手技に関して、パフォーマンス指数への影響は認められなかった。

結論と臨床的関連性
 喉頭形成術と声嚢切除または喉頭形成術のみを行った馬では、77%が術後1回以上出走できた。手術前後の成績比較から競走パフォーマンスの改善は56%でみられ、主観的な評価では69%が改善した。”