育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

オーストラリアにおける高速トレッドミル内視鏡検査(Dartら 2001年)

安静時内視鏡検査を行う場合、ほとんどが異常呼吸音を伴うプアパフォーマンスが原因です。安静時の内視鏡検査だけで診断がつくほど明らかな異常がないときには、運動時内視鏡検査が推奨されます。

今回はオーストラリアの馬における運動時内視鏡検査の結果を紹介します。この結果で注目すべき点は、披裂喉頭蓋ヒダ軸側変位の多さ(10/37)です。これは運動時内視鏡検査でなければ診断できない動的な気道閉塞で、声門裂を狭くしてしまうためプアパフォーマンスの原因となります。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

”目的
 高速トレッドミル内視鏡検査の診断技術としての評価を行うこと。運動時の異常呼吸音を伴うプアパフォーマンスを主訴に来院したが、安静時の内視鏡検査では確定診断できなかったオーストラリアの競走馬の異常所見を記録すること。

デザイン
 回顧的臨床研究

方法
 13ヵ月の期間に、シドニー大学に異常呼吸音をともなうプアパフォーマンスを主訴に来院した馬の臨床記録と内視鏡動画を調査した。跛行がなく身体検査が正常で、安静時の内視鏡検査では確定診断できなかった馬を組み入れた。年齢、性別、血統、用途および内視鏡動画の異常所見を記録した。

結果
 37頭を組み入れた。高速トレッドミル内視鏡検査では73%で常気道の異常を認めた。22頭で単一の、4頭で2つの、1頭で3つの異常所見を認めた。喉頭片麻痺15頭、披裂喉頭蓋ヒダ軸側変位10頭、咽頭虚脱3頭、軟口蓋背側変位2頭、喉頭蓋虚脱1頭、声帯の軸側変位1頭、喉頭虚脱1頭であった。

結論
 本研究の結果は海外の文献と同様で、オーストラリアにおいても異常呼吸音を伴うプアパフォーマンスを主訴とする上気道疾患の診断に、高速トレッドミル内視鏡検査は有用な手技であると示唆された。しかし、この手技ですべての馬に診断がついたわけではなかった。安静時に異常はなかったが、運動時の検査で5頭は2つ以上の異常所見を認めた。このことから、異常呼吸音を伴うプアパフォーマンスを呈する馬は、安静時に異常が見つからなくても、診断するためには高速トレッドミル内視鏡検査をすべきである。”