育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

喉頭形成術と声帯声嚢切除の術後長期調査 パート1(Dixonら 2003年)

喉頭形成術と声帯声嚢切除は喉頭片麻痺(反回喉頭神経症)の主な治療法です。術後の長期的な調査はこれまでに行われた数が少なく、症例馬に対する調査は数が限られています。
今回は、老齢で使役されている雑種馬について、喉頭形成術と声帯声嚢切除を行った馬の長期成績について報告した2編を紹介します。まず1つ目は手術による披裂軟骨外転の維持と手術の合併症について調査した論文です。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

”研究を実施した理由
 喉頭形成術は近年、馬の喉頭片麻痺の治療に最もよく用いられる方法であるが、術後に披裂軟骨外転の程度を評価した報告はこれまでにない。さらに、喉頭形成術の合併症についてもほとんど報告がない。

目的
 喉頭形成術後の披裂軟骨外転の程度を記録すること。手術の合併症を余すことなく記録すること。

方法
 1986-1998年に、年齢中央値6歳の、雑種で使役につかわれている馬で、2本のステンレス鋼ワイヤーを用いた喉頭形成術と声帯声嚢切除を行った200頭(前向き136頭、後向き64頭)について調査した。198人の馬主からの聞き取り調査を中央値19ヵ月の追跡期間でおこなった。術後の披裂軟骨外転は、術後1日、7日、6週間の時点で内視鏡検査を行い5段階で評価した。

結果
 術後1日では、62%が良好な外転(中央値G2)、10%が過剰な外転(G1)、5%が小さな外転(G4)を認め、全体の中央値はG2であった。披裂軟骨外転の外転は徐々に失われ、1および6週間後には中程度の外転(G1-5:中央値G3)となっていた。披裂軟骨外転が失われたうちの10%はワイヤーを締めるために、外転がきつく嚥下障害をおこしたうち7%はワイヤーを緩めるために再手術を必要とした。術創部の合併症は、漿液腫や膿瘍で、2週間以内に9%、4週間以内に4%、4週間以上で4%の症例にみられた。喉頭切開部からの排液は、術後2週間で22%、術後4週間以内で7%、術後4週間以上で2%の症例にみられた。発咳を認めた馬は43%で、披裂軟骨外転の程度との有意な相関を認めた。食事中の発咳が24%、食事や嚥下と関係ない発咳が19%であった。6ヵ月以上の慢性的な発咳は14%で認めたが、これらの半分は併発する呼吸器疾患によるものと思われた。

結論
 輪状軟骨と気管軟骨の面を縫合しておくことで、喉頭切開部の創は最も早く治癒した。喉頭形成術の術創の問題は、ステンレス鋼ワイヤーを用いた場合、長期の問題を起こす馬は少なかった。

潜在的関連性
 術後6週間で、ほとんどの馬で披裂軟骨の外転が有意に失われていた。これを避けるすべを探すべきだ。しかし過剰な披裂軟骨の外転は術後の嚥下障害や発咳にも関連している。”