育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

球節MRIによる中手骨外顆骨折のリスク評価(Tranquilleら 2017年)

球節の近位を構成する管骨(第三中手骨、第三中足骨)は、走行中の大きな負荷によって骨折することがあります。内顆と外顆、どちらにも関節面からの骨折が起きる可能性があり、内顆では特に重篤でプレート固定を要します。今年5月には4戦無敗で北米クラシックの有力馬であったNadalという馬が、外顆骨折により螺子固定を受けて引退したと発表されました。
このような骨折を発生前に診断することができれば、悲惨な事故を防ぐことができます。そこでMRIを用いた軟骨下骨の評価でリスク評価が可能であるか検討した文献を紹介します。

 

”研究に用いたのは競走中に第三中手骨(MC3)外顆の片側皮質骨折を発症した47頭と、それ以外の理由で安楽死となった馬49頭から得られた両前肢。1.5テスラのGE製MRIで、T1およびT2強調画像を得た。解析ソフトで骨折したMC3、骨折のないMC3で遠位掌側矢状稜近くの軟骨下骨の厚みを比較したところ、骨折したMC3では明らかに骨の厚みが増しており、骨折肢で中央値29.7mm、非骨折肢で中央値8.8mmであった。ROC解析によると、本研究における陽性的中率は83.7%、陰性的中率は85.7%であった。カットオフ値を軟骨下骨の厚み>16mmとすると、検査の感度は79.2%、特異度は98%となった。
骨折肢の対側肢も軟骨下骨の厚みは増しており、リスクが増している可能性がある。どちらの肢も高リスクだったが一方の肢で骨折が発生したということであろう。これまでにも発生しやすい肢が報告されているが原因はわかっていないし、骨の厚みが増すのも遺伝や調教や栄養などの要因が考えられるが真相は不明である。以前のCTを用いた研究ではリスク評価は難しかったが、今回のMRIを用いた骨の厚み(カットオフ値>16mm)は骨折を予測できる可能性がある。MRIによるスクリーニングと、その他の臨床的な要素を組み合わせることでよりよいリスク評価ができる。
今回は半数が骨折した馬から得た肢だった。実際の症例馬たちで言えば、この骨折の発生率は0.5%と見積もった。陽性的中率は、その集団における発生率によって影響を受けるため、スクリーニング検査として使うにはそこが決定的となる。
MRIで検出できる骨折前段階の変化を示すマーカーがわかれば、骨折リスクの信頼できるスクリーニング法となる。しかしMRIを行う前に多くの骨折リスクのない馬を除外する検査も必要である。本研究の結果は骨折前段階の明らかな変化を明らかにしており、スクリーニングにも臨床検査にも有用と考える。日常的にスクリーニングで用いるようになれば、運動を変更して骨折の発症を減らすことができるようになる。”

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

”要約
研究を実施した理由
 第三中手骨外顆の骨折は、世界中の競走馬の福祉における関心事である。

目的
 本研究の主目的は重篤な骨折リスクがあることを突き止めるスクリーニング検査として、MRIによる骨折前段階のマーカーがあるか調べることである。

研究デザイン
 競走馬において骨折リスクを骨レベルで評価したケースコントロール研究

方法
 第三中手骨の外顆骨折がある肢とない肢の合計191本をMRIに供した。第三中手骨の末端部の数か所で密な軟骨下骨/海綿骨の骨の厚さを計測し、外顆骨折の有無と厚みについて、回帰解析を行って違いを評価した。

結果
 第三中手骨の矢状溝より外側の掌側部における密な骨の厚みがあるほど、骨折との相関があった。この部位における骨折診断のために、密な骨の厚みの理想的なカットオフ値を定めるため、ROC解析を用いた。本研究における骨折の罹患率から陽性および陰性的中率を算出した。これはより多くの競走馬でも概算となるだろう。

結論
 より好ましいスクリーニング検査にするためには、多くの真に骨折のない馬を排除し、スクリーニングする馬の骨折前段階の馬の率を増やす。そうすることで、この検査の陽性的中率は最大化できる。”