育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

球節の単皮質骨顆骨折(Ramzanら 2015年)

球節に負荷がかかると、第三中手骨および第三中足骨の遠位内顆または外顆から近位へ伸びる骨折を起こすことがあります。程度によっては整復が難しく、競走生命にかかわるだけでなく、致命的になることもあります。

今回は、比較的軽度な片側皮質骨のみの骨折を診断し治療した症例についての報告を紹介します。多くは保存療法で競走復帰しているのですが、休養期間は短いように感じます。また再骨折も5頭で認められており、手術も検討した方がいいと思わせる結果でした。手術した症例群の成績はまた今度紹介します。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

”研究を実施した理由
 中手骨および中足骨の顆骨折は競走馬にとって重要な疾患で、競馬場における故障のなかで最も多いタイプの損傷である。調教による負荷で微細なダメージの積み重ねが原因と考えられ、通常、前駆病変が先行し、片側皮質短い骨折線がX線MRI検査で診断される。深刻な故障のリスクを最小限にするにはこの損傷を早期に診断することが望ましいが、これまでに片側皮質の顆骨折についての臨床的・診断的特徴に関する詳細な記録はない。

目的
 中手骨および中足骨の短片側皮質顆骨折と診断した馬の、臨床症状、画像、治療成績について記述すること。

研究デザイン
 回顧的症例研究

方法
 2006-2013年の期間で英国において平地競走馬で片側皮質の顆骨折と診断した馬について、画像と医療記録をもとに、臨床症状、損傷部位、治療方法、リハビリおよび成績について調査した。

結果
 調査期間中に45頭が合致した。前肢の損傷が多く35/45(77.8%)、外顆が多かった(前肢:25/35、後肢:7/10)。年齢は2-7歳で中央値3歳、平均3.4±1.3歳であった。
 初診時の跛行は10段階でG1-8、中央値G4であった。4頭は騎乗時のみ、3頭は強調教後のみ跛行が見られた。球節における関節液の増量や触診痛および屈曲痛といった異常所見はみられなかった。診断麻酔は球節内ブロック24頭(53.3%)、Low 4 point block10頭(22.2%)で合計34頭(75.6%)で行った。診断麻酔をしなかったうち6頭は跛行が顕著で骨折を強く疑ったため実施しなかったが、11頭はX線およびシンチグラフィ検査で有意な所見が得られた。
 症例の多く(35/45:77.8%)は屈曲位の背掌側もしくは背底側像で診断でき、X線検査では骨折が診断できなかった症例はMRIで診断した。様々な屈曲および撮り下ろしおよび左右の角度付けをしてX線撮影することで、診断能力は向上する。MRIが使えないときには運動を止めて10-14日後に再度X線撮影を行うことで診断できる。7頭は診断時もしくは再発時に手術を行った。
 診断後は馬房内休養とウォーキングマシンによるリハビリが行われ、最も多かったのは2-4週間の馬房内休養に続き、4週間のウォーキングマシンでの運動で、17頭で行われた。
関係のない理由で引退した馬を除き、28/30(93.3%)が復帰し、初出走までの期間は92-807日(中央値259日)であった。
保存的管理を行ったうち、5頭(16.7%)は140-421日(中央値305日)後に再発した。しかしこのうち4頭では運動開始前にX線検査で骨折の治癒は確認されていた。8週間休養した症例では2/17、12週間以上休養した症例では2/13が再損傷しており、休養期間と再損傷は無関係に思われた。2例で診断できずに運動を継続した結果、108日、197日後に重篤な完全骨折に至った症例があった。

結論
 片側皮質の顆骨折は臨床所見は軽度で、骨折の診断には適切な画像診断が必要である。診断できなければ重篤な骨折へと進行してしまう。ほとんどの症例は保存療法に良好に反応し、競走に復帰した。しかしなかには再発のリスクを考えて手術することも考慮する。競走馬の顆完全骨折は、獣医師が警戒し、適切な介入を行うことで発生を減らせる可能性がある。”