育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

喉頭形成術後の外転維持と運動時の安定性(Barnettら 2013年)

喉頭形成術を行った馬に関して、長期的な披裂軟骨外転が維持されているか調査された文献は少なく、術後に運動時内視鏡検査を行った研究も多くありません。

喉頭形成術による披裂軟骨の外転は、運動中も維持されていると考えられていました。しかし、実際の運動中の吸気時には陰圧が上昇しており披裂軟骨は内転方向に力を受けます。その力に十分に拮抗できるような固定でなければ、気道が閉塞されると予想され、せっかく手術してもパフォーマンスの改善は望めないかもしれません。

そこで今回は喉頭形成術後の安静時の披裂軟骨外転維持を長期間で調査し、運動中の安定性を調査した文献を紹介します。この文献によると、喉頭形成術後の運動時の披裂軟骨の不安定は多くない(21.2%:7/33)が、安静時の披裂軟骨外転グレードや術後のゆるみとは相関がなかったとのことです。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

”目的
 ①喉頭形成術後の長期的な披裂軟骨外転維持を評価すること。
 ②披裂軟骨外転グレードと運動時の披裂軟骨安定性の相関を調べること。

研究デザイン
 症例集

動物
 喉頭形成術後に再検査した馬33頭

方法
 2005-2010年に喉頭形成術を行った89頭のうち、術後(中央値33ヵ月;範囲4-71ヵ月)の安静時および運動時の内視鏡検査による披裂軟骨外転と上気道の評価が可能であった33頭を対象とした。術後1および6週間の披裂軟骨外転グレードが、長期の披裂軟骨外転グレードと相関するか調査した。長期の披裂軟骨外転グレードが運動中の披裂軟骨外転の喪失に影響するか調査した。

結果
 術後1週間での外転グレードの中央値はG2(N=33)であったが、術後6週間での外転グレードの中央値はG3(N=16)に悪化した。G3の外転は長期間維持された。1週間後の披裂軟骨外転と長期的な外転には相関が乏しかった(ρ=0.43, P=0.1)が、術後6週間のと長期の外転には良好な相関がみられた(ρ=0.89, P<0.001)。運動中の披裂軟骨不安定は7/33で認められたが、披裂軟骨外転グレード(P=0.50)や、そのグレード減少値(P=0.64)とは有意な相関を認めなかった。

結論
 術後6週での披裂軟骨外転の喪失は限られていた。安静時の披裂軟骨外転グレードは運動時の披裂軟骨の安定性を評価するのに有効な指標ではない。”