育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

第一指(趾)骨の背側前面の骨折(Markelら 1985年)

昨日紹介した文献に記載された第一指(趾)骨骨折のうち、背側前面の骨折だけについてまとめた報告が、同じ著者から同じ年に違う学術誌に掲載されました。

このタイプの骨折は比較的少なく、私はこれまでに2頭(1頭は初発、もう1頭は他の場所で診断を受けた、どちらも後肢)の経験があります。どちらも不完全骨折で骨片の変位はありませんでしたが、次第に骨折線が開いていくように見え、骨反応が大きく出ました。結果的にラグスクリューによる内固定術を選択しましたが、過去の報告ではどのような治療と成績だったのでしょうか。


Dorsal Frontal Fractures of the First Phalanx in the Horse
MARK D. MARKEL, BENSON B. MARTIN Jr., DEAN W. RICHARDSON
Vet Surg. 1985 Vol.14 36-40

 

”第一趾骨の背側前面の骨折を発症した9頭について記述した。全て後肢にみられ、2頭は両側に骨折がみられた。11の骨折の内訳は、変位のない不完全骨折(7)、変位のない完全骨折(1)、変位のある完全骨折(3)であった。変位のある完全骨折を認めた2頭は、関節切開により整復しラグスクリューで固定した。残りの7頭は保存療法を行った。

発症から3-6ヵ月の間に、全ての馬で跛行が消失した。変位のある背側前面の完全骨折に対しては、ラグスクリューによる固定を行うことで関節を整復し、二次的な関節の変化を予防することができる。保存療法は、馬房内休養と強固な支持包帯を行うことで、4-6ヵ月で骨の治癒が得られた。

9頭すべてで追跡調査が可能であった。2頭は繁殖入り、5頭は骨折前と同等以上の競走パフォーマンスが可能で、1頭は複合競技(馬場と障害)、1頭は関係のない前肢跛行によりパフォーマンスが低下した。”


この文献では、不完全骨折に対しては全て保存療法が行われたようです。
しかし骨折の治癒までに4-6ヵ月かかったとのことですので、これは改善の余地があるように感じます。また、言及されているように、関節面の整復が二次的な骨の変化(変形性関節症:DJD)の予防のためになにより重要なことから、不完全骨折に対しても可能であれば内固定を検討すべきではないかと感じました。