育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

第一指(趾)骨の背側前面の骨折とその整復法(Wrightら 2018年)

第一指(趾)骨の背側前面の骨折は、これまでにまとまった頭数の報告が1報のみで、損傷の特徴や治療法、予後については不明な点が多くありました。2018年にニューマーケット馬病院から発表された文献には、この損傷についての情報が詳しく記述されましたので、本日はこれについて紹介します。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

”背景
 第一指(趾)骨背側関節面の辺縁に生じる骨片骨折は。競走馬ではよくみられる損傷である。大きな骨折は関節包付着部よりも遠位に広がり、これは背側前面の骨折とよばれてきた。

目的
 第一指(趾)骨の近位背側関節面にみられる背側前面の短い骨折の部位と形態について報告し、関節鏡およびX線ガイド下での整復技術について記述すること。

研究デザイン
 1つの診療所における回顧的症例研究

方法
 ニューマーケット馬病院に紹介された、第一指(趾)骨近位背側面の骨端におよぶ背側前面の骨折症例の記録を回収し、画像を解析して損傷の形態を記録した。整復方法と結果についても調査した。

結果
 全てサラブレッド競走馬で、21頭で22の骨折が対象となった。骨折線は近位関節面から始まり、関節包よりも遠位の背側皮質骨に達していた。22の骨折は、後肢(17)、前肢(5)で発症していた。16頭は競走または追切で発症した急性骨折であった。骨折がみられたのは第一指(趾)骨内側が20、外側が1、中央が1であった。全て関節鏡とX線ガイド下でランドマークを頼りに1本のラグスクリューにより固定した。16頭が術後に競走復帰し、骨折前と同様のパフォーマンスを示した。

主な制限
 本研究から、それぞれの損傷の形態は似通っていたため、共通の病態であることを指示する結果となったが、正確な原因の特定には至らなかった。他の治療法をとった馬がいなかったため、治療効果を比較して評価することができない。

結論
 第一指(趾)骨の近位背側関節面にみられる前面の短い骨折は、関節包より遠位に抜ける骨折線で、形態は共通していた。この骨折は侵襲の少ない整復が可能で、調教および競走復帰の予後は良好である。”