育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

軟口蓋不安定と軟口蓋背側変位との関係(Allenら 2013年)

運動時内視鏡検査を行っていると、軟口蓋の背腹側方向の不安定をよく目にするようになりました。これは程度が様々ですが、喉頭蓋軟骨を超えて軟口蓋背側変位まで至ることはないことが多いです。これらふたつは違う病態なのか、不安定の延長上に軟口蓋背側変位があるのか、その関係性について検討した文献を紹介します。

 

文献でわかったこと

軟口蓋不安定が軟口蓋背側変位へと進行する場合には、軟口蓋の不安定の大きさだけではなく、披裂喉頭蓋ヒダ軸側変位の重症度も関連しているということがわかりました。喉頭蓋の形状と披裂喉頭蓋ヒダの緊張性とも関連がありそうですし、これらは密接な関係性がありそうです。

そして、軟口蓋不安定から軟口蓋背側変位へと移行する可能性があることは頭に入れておく必要がありそうです。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

”研究を実施した理由
 軟口蓋にかかわる競走馬の動的な上部気道閉塞には2つのタイプが明らかにされてきた。それは軟口蓋不安定と軟口蓋背側変位である。軟口蓋背側変位は、それが起きるかどうかで判断できるが、軟口蓋不安定は主観的なもので、獣医によってその解釈も分かれる。

目的
 本研究の目的は、軟口蓋不安定の特徴を記録し、軟口蓋背側変位に続く所見があるか調査することである。

方法
 高速トレッドミル内視鏡検査のため来院したサラブレッド競走馬の内視鏡所見を回顧的に調査した。内視鏡検査動画では、運動終了前のの10秒間、軟口蓋背側変位の発生する直前の10秒間をチェックした。披裂喉頭蓋ヒダ軸側変位の程度、喉頭蓋軟骨の形状、軟口蓋の形状、軟口蓋による声門裂の閉塞度合いを評価した。

結果
 本研究には72頭の馬が組み込まれ、7頭は軟口蓋不安定を示さなかった。65頭の軟口蓋不安定のうち、30頭(46%)は軟口蓋背側変位を引き起こした。軟口蓋不安定と喉頭蓋の形状および披裂喉頭蓋ヒダ軸側変位との間には有意な相関を認めた。さらに、軟口蓋背側変位の発症には、軟口蓋不安定および披裂喉頭蓋ヒダ軸側変位の重症度増加と喉頭蓋形状の変化が関連していた。

結論
 本研究から、軟口蓋不安定の内視鏡検査における特徴および軟口蓋背側変位へと進行する特徴が明らかになった。

潜在的関連性
 この発見から、術者が軟口蓋不安定を認識し、軟口蓋背側変位の前兆を把握する助けとなる。”