軟口蓋背側変位に対する治療法は、これまでに複数提案されています。特に若馬ではまだ喉頭蓋軟骨の成長を待つ余裕があるため、保存療法が選択されることが多いです。保存療法は、ただ何も介入しないというだけでなく、ノーズバンドの装着や舌縛りなどを組み合わせて軟口蓋背側変位の発症を抑制しようという方法が取られます。
しかしこれらでもうまくいかない場合には外科的な手術が検討されます。今回はその一つである軟口蓋の焼烙術を実施した現役競走馬の術後成績を、保存療法を行った場合と比較した文献を紹介します。
この文献は、トレッドミル内視鏡検査で診断した軟口蓋背側変位DDSPに対する保存療法(ノーズバンドや舌縛り)と軟口蓋の熱焼烙術について、競走成績をもとに比較したものです。保存療法が半分以上に効果的だったという結果でした。しかし最後に注意書きされているように、症例をランダムに選んでいたら結果が変わった可能性があります。データを詳しくみると、焼烙術を行った群では手術前の獲得賞金がかなり高いようでしたので。
”研究を実施した理由
これまでに、軟口蓋背側変位を解消する外科的手技の客観的な比較は、推定診断に基づいたものに限られていた。目的
特発的な間欠的軟口蓋背側変位と確定診断した競走馬に対する治療効果を、熱焼烙と保存療法で比較すること。仮説
軟口蓋背側変位に罹患した競走馬のパフォーマンスにおいて、保存療法と熱焼烙のどちらもいい効果がある。方法
高速トレッドミル内視鏡検査にて軟口蓋背側変位と確定診断したサラブレッド競走馬について、競走記録を調査した。獲得賞金を基準にパフォーマンスを評価した。結果
焼烙を48頭、保存療法を30頭で行った。治療前の獲得賞金は、診断直前で明らかな減少がみられていた。出走歴のあった馬は、どちらの治療法であっても高い競走復帰率(90-96%)であった。競走馬ごとの治療前後3走の獲得賞金を比較すると、保存療法では53%、焼烙では36%がパフォーマンスが改善した。この違いは臨床的には重要であるが、統計学的な有意差はなかった。結論と潜在的関連性
パフォーマンスが改善した割合は、焼烙よりも保存療法の方が高かった。熱焼烙はこれまでに発表されている、他の軟口蓋背側変位の治療法に比べると効果は劣るようである。この2つの治療法の比較を解釈するには注意が必要である。なぜなら、症例はランダム化されておらず、群間で程度のばらつきが生まれてしまっているからである。”