育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

披裂軟骨炎から分離された細菌の薬剤感受性(Johnstonら 2020年)

これまでに経験した披裂軟骨炎は、自然発生よりも喉頭形成術の術後に発生したものが多かったです。他の先生方からは、1歳のレポジトリー内視鏡検査で見つかる特発性の披裂軟骨炎は、抗菌薬と抗炎症薬の全身投与と運動制限で多くは良化するとの見解を得ています。しかし、披裂軟骨炎は原因および発症要因については詳しく解明されていないのが現状です。

そこで今回は、最近発表された、披裂軟骨炎から分離培養された細菌の薬剤感受性試験の結果をまとめた文献について紹介します。

 

文献で分かったこと

外科的に切除した披裂軟骨炎の検体から分離した細菌の同定と薬剤感受性試験の結果を回顧的に調査しました。

興味深いことに、半数以上で複数の細菌が分離され、その割合はグラム陽性とグラム陰性が同程度でした。また、33%が嫌気性菌であることも示されました。最も多かったのはStreptococcus属でしたが、その次に多いのが腸内細菌群というのは意外でした。

薬剤感受性試験の結果、セフチオフルが83%に有効、アンピシリンが64%、テトラサイクリン48%、エンロフロキサシン45%と続きました。

この報告はオーストラリアから発表されており、日本では細菌の割合や薬剤感受性試験の結果に差がある可能性がありますが、最多がStreptococcusと考えれば、セフェムやセファロスポリン系を第一選択として用いるのは妥当と考えます。ただ、次いで多いのが腸内細菌群で、嫌気性菌も多く含まれているようですので、薬剤投与に反応が乏しい場合には細菌学的検査と薬剤感受性試験の結果に基づいて抗菌薬を変更する必要がありそうです。

   

参考文献

Antimicrobial susceptibility of bacterial isolates from 33 thoroughbred horses with arytenoid chondropathy (2005-2019)
Georgina C A Johnston, Jonathan M Lumsden
Vet Surg. 2020 Aug 7. doi: 10.1111/vsu.13474. 

 

”目的
 外科的に切除した披裂軟骨および肉芽腫の検体から分離された細菌の種類および薬剤感受性を記述すること。

研究デザイン
 回顧的コホート研究

動物
 33頭のサラブレッド競走馬

方法
 2005-2019年の期間に、披裂軟骨炎の手術のために来院し、検体を細菌培養および感受性試験にまわした馬の記録を回収した。記述的解析を行った。

結果
 全体で、56の菌を得ることができた。グラム陽性菌(58%)、グラム陰性菌(54%)、嫌気性菌(33%)が培養された。58%の馬で複数の細菌が分離された。菌種はStreptococcus属が最も多く32%、次いで腸内細菌群が13%であった。薬剤感受性試験の結果は、感受性が多かった順に、セフチオフル83%、アンピシリン64%、テトラサイクリン48%、エンロフロキサシン45%、トリメトプリム-スルファメソキサゾール41%、ゲンタマイシン18%であった。複数の薬剤に抵抗性を示した菌は44%であった。

結論
 幅広い種類の菌が分離された。このことは、披裂軟骨炎において呼吸器の常在菌が二次的に日和見感染することが発症要因であるという根拠になる。過去に馬の呼吸器から採取された細菌の報告と比較して、本研究における多剤耐性菌の率は高かった。ST合材の有効性は低かった。

臨床的関連性
 軽度から中程度の披裂軟骨炎については細菌培養および感受性試験ができていないが、本研究の情報から、披裂軟骨炎の進行を制限するために、よりターゲットを絞った広域スペクトラムの抗菌薬による治療を考慮すべきと言える。本研究における薬剤感受性試験の結果および多剤耐性菌が認められたことから、抗菌薬のガイドラインを遵守することの重要性が強調された。また初めに選択した抗菌薬が奏功しなかった場合、内科的治療を継続するより外科的治療を必要とすることが明らかとなった。”