育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

立位での披裂軟骨部分切除(Grayら 2019年)

これまでに報告された披裂軟骨部分切除は、全身麻酔下で喉頭切開によって行う術式でした。しかし昨年、立位鎮静下での披裂軟骨部分切除を行った症例をまとめた報告がなされました。全身麻酔によるリスクを回避できる代替法になれるかもしれません。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

”目的
 立位鎮静下での披裂軟骨部分切除を行った筆者らの経験を報告すること。

研究デザイン
 回顧的研究

動物
 14頭の馬主が所有する成馬

方法
 2013-2017年の期間に、立位鎮静下で片側披裂軟骨部分切除によって治療した馬の医療記録を回顧的に調査した。治療馬の統計、内視鏡所見、治療歴および術後の成績を調査し記録した。

結果
 13頭は左喉頭片麻痺、1頭は両側喉頭片麻痺の症例であった。5頭は喉頭形成術の術歴があったがうまくいかなかった。鎮静および局所麻酔により、粘膜閉鎖をしない左披裂軟骨部分切除は全頭で成功した。12頭で長期的な結果について電話による聞き取り調査が可能であった。このうち9頭は内視鏡検査による再評価を行い、3頭は術創に肉芽腫形成を認め、最終的に2頭は永久気管切開を必要とした。9頭は異常呼吸音を認めず運動に復帰、2頭は異常呼吸音があるが術前より減少、1頭はそのまま繁殖牝馬として繋養された。

結論
 十分な鎮静と局所麻酔によって、立位での披裂軟骨部分切除ができた。

臨床的意義
 全身麻酔を行うことに関するリスクを排除するための代替手段として、立位鎮静下での披裂軟骨部分切除を考慮できる。”