先日までに紹介した片側の披裂軟骨が腹軸側へと落ち込んでしまう状態がごくまれに見られます。主にクライズデール種について行われた研究から、これには披裂軟骨横断靭帯が関わっていることが示されました。*1
ではこの靭帯の機能は、披裂軟骨外転にどのように関わっているのでしょうか。そして上記のような症状を示す馬に対して喉頭形成術は有効なのでしょうか。これらについてはまだ調査が行われていません。
本記事で紹介する文献は、喉頭形成術による披裂軟骨外転の効果を高めようとして、披裂軟骨横断靭帯を切断した場合の喉頭形成術を試した研究です。この実験では解剖体を用いて、生体外で靭帯の影響を調査しました。
文献のハイライト
この文献によると、左右の披裂軟骨をつなぐ靱帯を切断することによって、喉頭形成術による披裂軟骨外転角度を大きくすることができました。
しかし、運動中の呼吸による気道内圧の変化で披裂軟骨にかかる力が大きくなったときに維持できる強度があるかは今後の検討が必要と結ばれています。
”目的
喉頭形成術を行ったときに、披裂軟骨横断靭帯が披裂軟骨外転に与える影響を調査すること。方法
13頭の解剖体から得た喉頭を用いて、右および左の喉頭形成術を行った。左の披裂軟骨には0-24Nまで3Nずつ増加した負荷をかけ、一方で右側には0または24Nの負荷をかけた。これを横断靭帯の切断前後で行った。デジタル写真を喉頭吻側から撮影し、左披裂軟骨の外転角度の解析を負荷ごとに行い、靭帯切断の前後で比較した。横断靭帯の長軸および短軸断面を負荷実験とは別の7頭の喉頭を用いて組織学的に評価した。結果
左披裂軟骨にかかる力が大きくなるほど、左披裂軟骨の外転角度は増大した。しかし右披裂軟骨にかかる力が大きいと、左披裂軟骨の外転角度は減少した。横断靭帯を切除すると、左披裂軟骨の外転角度は平均36.7度(95%信頼区間:30.5-42.8度)から平均38.4度(95%信頼区間32.3-44.5度)に増加した。組織学的検査から、横断靭帯は独立した靭帯ではなく、左右の横披裂筋と合体していた。結論
生体外において、横断靭帯を切断することで左披裂軟骨の外転角度は大きく開くことができるようになった。この結果から、喉頭形成術と同時に横断靭帯を切断することは利点があると示唆されたが、生体内の負荷がかかった状態での横断靭帯の切断や反回喉頭神経症の臨床例における安全性及び有効性について評価しなければならない。”