育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

英国競走馬における第三手根骨矢状骨折(Tallonら 2020年)

第三手根骨の盤状骨折は、前面および矢状方向に起きやすいことが報告されています。どちらも骨片が大きく、可能であれば螺子固定術の対象となります。

過去の文献では前面よりも矢状方向の骨折の方が競走復帰や成績がよいことが報告されています。

最新の文献では英国の競走馬における矢状方向の盤状骨折の手術成績が調査報告されていますので紹介します。

 

文献でわかったこと

螺子による内固定は30頭で行い、20頭(67%)が競走復帰した。このうち14頭(70%)は復帰後にパフォーマンスレイティングが改善した。

一方で、保存療法は15頭で行い、7頭(47%)が復帰した。しかし、レイティングが改善したのは1頭だけであった。

臨床例をまとめた報告であり、治療法の選択はランダム化されておらず、頭数も少ないため明らかに成績に差があるとはいえない。

   

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

”背景
 競走馬における第三手根骨矢状骨折は知られた損傷である。しかしこれまで英国のサラブレッド競走馬におけるデータは発表されていない。

目的
 英国のサラブレッド競走馬における第三手根骨矢状骨折からの競走復帰と、保存療法と外科療法の違いを比較すること。

研究デザイン
 1つの医療機関における回顧的研究

方法
 単純な第三手根骨矢状骨折を発症したサラブレッド競走馬について、15年間の電子カルテおよび競走記録を調べた。骨片が複数に割れているものや、短く不完全な骨折は除外した。治療介入から出走までの期間を調査した。成功率は、フィッシャーの正確確率検定またはマンホイットニーのU検定を用いて比較した。

結果
 47頭、49の骨折を組み入れた。全体では27頭(60%)が競走復帰した。復帰までの期間中央値は251日(115-600、IQR 109)であった。
15頭、16の骨折は保存療法をとった。うち7頭(47%)が出走し、出走までの期間は115-508日(中央値240日、IQR 306)であった。
30頭は外科療法を行った。術式は、内視鏡下での3.5mmラグスクリュー固定であった。うち20頭(67%)が競走復帰し、出走までの期間は145-600日(中央値264、IQR102)であった。
治療後のレーシングポストレーティングは、外科手術で14/20が改善したのに対し、保存療法は1/7のみであった。

主な制限
 症例数が少なく、特に保存療法を行った頭数は少ない。治療選択はランダムに行われておらず、保存療法の馬には結果的に引退し繁殖入りした馬もふくまれる。

結論
 本研究から、第三手根骨矢状骨折に対しては保存療法および外科的整復のどちらも調教および競走復帰は可能であった。”
IQR=interquartile range 四分位数