育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

英国競走馬の第三手根骨盤状骨折の特徴と成績への影響(Baldwinら 2020年)

英国の競走馬における第三手根骨の骨折のX線と関節鏡所見と、それがパフォーマンスに与える影響を調査した文献があります。

 

文献でわかったこと

競走復帰率は63.1%で、出走歴がある牡馬が競走復帰しやすいとのことでした。骨片が細かく割れている症例が59.2%も存在し、これが二次的な持続的な炎症の原因となり骨関節炎へと移行してしまう可能性があり、予後に関係するかもしれません。

 

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

”要約

背景

 サラブレッド競走馬における第三手根骨盤状骨折はよく見られる損傷である。1986年に初めての報告がなされて以降、関節鏡視下での整復術の成績は報告されていない。加えて、英国の管轄内におけるサラブレッド競走馬における骨折の詳細および競走成績については報告がない。

 

目的

 サラブレッド競走馬における第三手根骨盤状骨折の頻度および関節鏡視下整復術が競走成績に与える影響を明らかにすること。

 

研究デザイン

 回顧的症例研究

 

方法

 2006-2015年の期間でニューマーケット馬病院において、第三手根骨盤状骨折を関節鏡ガイド下で整復したサラブレッド競走馬の医療記録を回収した。X線および関節鏡検査を回顧した。シグナルメントおよび骨折の形状が競走成績に与える影響を評価した。

 

結果

 第三手根骨盤状骨折は、橈側前面に最も多く発生し、45/71(63.4%)であった。関節鏡視下で骨片の粉砕が確認された症例は42/71(59.2%)あり、骨折の掌側辺縁に最も多くみられた。術後は41/65(63.1%)が出走した。メスはオスよりも競走復帰率が低かった(P<0.001)。術前に出走歴があった馬は、出走歴がなかった馬と比較して、術後出走率は4.4倍であった(オッズ比4.4、95%信頼区間1.4-13.5、P<0.01)。術後はわずかだが競走パフォーマンスが低下した。

 

主な制限

 本研究の症例は、外科的整復の対象となるとみなされて外科病院に紹介されたサラブレット競走馬が選ばれている。

 

結論

 X線検査により骨折の形状は確認できたが、骨片の粉砕や関節内の他の損傷を予測できなかった。関節鏡は整復のガイドをするだけでなく、併発している損傷を確認し対処することが可能になる。本研究の結果は英国の競走馬における適切な予後評価を行う助けになる。”