育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

DDSPに対するタイフォワード術後の競走成績(Cheethamら 2008年)

軟口蓋背側変位DDSPに対する治療法として、タイフォワードという術式があります。軟口蓋背側変位は、喉頭腹側を牽引する甲状舌骨筋の機能低下による軟口蓋の不安定化が原因と考えられています。*1

タイフォワード術は、この筋肉の収縮と同じ方向に糸をかけて張力を補い、軟口蓋を安定化させる目的で行われています。

では実際の症例の治療後の成績はどうなっているのでしょうか。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

”研究を実施した理由
 喉頭タイフォワード術は軟口蓋背側変位DDSPの矯正法として広く用いられているが、その効果をエビデンスに基づいて評価したものはない。

仮説
 喉頭タイフォワード術によって、術前のパフォーマンスレベルに復帰し、コントロール群と同様に戻れる。また術後の喉頭と舌骨の位置関係が競走パフォーマンスにも関連する。

デザインと動物
 コーネル大学で2002-2007年にDDSPの治療のためタイフォワード術を行った競走馬に関してのケースコントロール研究

方法
 成績の変数として、1回以上出走できたか、および獲得賞金($)を用いた。術前3レースに出走していた馬から、年齢、性別および血統がマッチするコントロールを選んだ。X線検査によって、術前後の喉頭と舌骨の位置関係を評価した。確定診断した症例と、推定診断になった症例のデータは分別して解析した。

結果
 研究期間には263頭の馬が来院し、このうち106頭を研究に組み入れた。DDSPを確定診断した症例は36頭、推定診断は70頭であった。術後の出走率は、コントロール群と同等であった。術前の獲得賞金は、治療馬の方がコントロールよりも有意に少なかった。手術により、底舌骨は背側・尾側に、喉頭は背側・吻側に動かすことができた。術後の喉頭と舌骨の位置は、底舌骨がより背側に、喉頭がより背側だが吻側には動かないポジションだと、競走復帰の確率は上がった。

結論
 喉頭タイフォワード術を行った馬は、コントロールと同様の確率で術後に出走した。手術により、術前のベースラインおよびコントロールと同じ獲得賞金まで回復できる。

潜在的関連性
 本研究により、競走馬において喉頭タイフォワード術を実施することを支持する強力な根拠が示された。馬における喉頭と舌骨のコンフォメーションと鼻咽頭の安定性の関係についてはさらなる研究が必要である。”