育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

馬の胸腰椎の異常(Jeffcott 1980年)

昨日紹介したキ甲部の胸椎棘突起骨折は、私はこれまでに4例経験があります。しかしそれほど多い症例だとは認識されていないようです。慢性的な症例では見過ごされていることもあるのかもしれません。では十分な数の症例数をまとめた解析ではどの程度の割合で発生しているのでしょうか。

馬の胸腰椎疾患に関してまとめた、古いですが非常に多数の引用を得ている文献があります。

 

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

”要約

この調査は443頭の馬を含む。これらは、胸腰部の症状を示した履歴があり、Equine Research Stationへ紹介来院した症例である。背部の問題は様々な損傷が原因となり得る。そのため75頭(17%)で2つ以上の損傷が診断できた。103頭(19.7%)は背部への外傷歴はなかった。66頭は様々な程度の後肢跛行を臨床症状としていたが、37頭は原因部位を特定できなかった。

 

203頭(38.8%)は軟部組織の損傷が診断され、最も多かった部位はキ甲の尾側および腰部頭側における腰最長筋や棘上靭帯の損傷であった。競技馬における尾側腰部の問題の原因の多くは、慢性的な仙腸関節への負荷や軽度の仙腸関節不安定であった。他にはすくみ、腰椎の亜脱臼、馬尾神経炎などがあった。

 

15頭(2.9%)で椎体の奇形がみられ、脊柱側弯・前弯・後弯があった。診断がついたうち、椎体の損傷は202頭(38.6%)であった。尾側胸椎や頭側腰椎における背側棘突起の近接や重なりが最も多かった。障害飛越競技馬が173頭と最も多く、これにより背中のしなやかさや柔軟性が失われ、パフォーマンスが減退し、発作的な背中の痛みに襲われる。骨折(13頭)や変性性脊椎症(14頭)は比較的低い発生率であった。”