育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

ヨーロッパ馬内科医による成馬の胃潰瘍症候群についての合同声明⑤(Sykesら 2015年)

馬の胃潰瘍は、その一連の検査所見や症状から、馬胃潰瘍症候群EGUS:Equine Gastic Ulcer Syndromeと呼ばれるようになってきました。

ヨーロッパの大学の馬内科医による成馬の馬胃潰瘍症候群EGUSに関する合同声明が2015年に発表されていますので、これについて少しずつ書いていきます。

なお、Pubmed、JVIMから全文を読むことができますのでリンクよりご確認ください。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

“臨床症状

 胃潰瘍の調査をした期間では、臨床症状(食欲不振、ボディコンディション不良、腹痛)を伴うESGDの罹患率および重症度は、症状のない馬より有意に多かった。成馬において、臨床症状の範囲と胃潰瘍にはわずかな相関があるが、その相関を支持する疫学的に強力な根拠は不足している。報告されている臨床症状は、食欲不振、選り好み、ボディコンディションの不良、体重減少、慢性的な下痢、被毛の不良、歯ぎしり、行動変化(攻撃的または神経質で沈鬱)、急性または繰り返しの疝痛、プアパフォーマンスがある。

 

疝痛

 

 胃潰瘍と、疝痛発生頻度の増加、特に食後の腹痛を繰り返すこととの相関を示唆する根拠はいくつかある。ある研究では、疝痛を繰り返す馬の83%に胃潰瘍が認められ、そのうち28%は胃酸抑制治療に反応する胃潰瘍であった。疝痛症状とESGDには相関があり、ESGDの3.5%はそれまでに疝痛症状がみられた。他の研究では、急性疝痛の49%でESGDが認められ、外科的治療を行った馬では、内科的治療を行った馬よりもESGDの所見率は低かった。この理由は不明だが、おそらく内科的治療を行った馬は絶食期間が長く、ESGDのリスクが高まったからである。ESGDがあることで、消化管運動性が変化して、その結果、内科的な疝痛治療の対象となった可能性もある。

 

食欲不振、ボディコンディション不良、体重減少

 いくつかの文献で、食欲不振や選り好みと胃潰瘍との関連が報告されている。胃潰瘍のある馬での食欲減退の症状は軽度から重度と様々で、したがって見過ごされている。飼い主は食欲減退を選り好みととらえ、胃潰瘍の臨床症状だとは思わない。ボディコンディションの不良は調教中の競走馬で高い罹患率とともにみられる。

 

被毛の不良

 被毛の不良は、たいてい胃潰瘍の臨床症状としては曖昧である。サラブレッドにおける横断研究では、胃潰瘍と被毛の粗造には統計学的な相関があった。対照的に、他の研究ではこの関連を認めたものはない。

 

下痢

 成馬において胃潰瘍の症状として下痢が報告されている。しかし、因果関係の根拠は示されていない。さらにいえば、広い病態の中で胃潰瘍が関わっているというのは解剖学的にも生理学的にも信じがたい。

 

行動の変化

 

 典型的な行動や行動変化を示す馬が胃潰瘍の可能性が高いことは広く知られている。報告されている行動の変化は、神経質、攻撃的、自傷行為である。静かな馬や正常な行動の馬に比較して、神経質なショーホースはESGDになりやすい。対照的に、競走馬では神経質な気性の影響はなく、ESGDに限れば攻撃性の影響が認められた。サクヘキとESGDとの相関もあるが、このメカニズムは不明である。”

 

 

臨床症状のうち、プアパフォーマンスについては長くなるので次の記事に続きます。