育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

ヨーロッパ馬内科医による成馬の胃潰瘍症候群についての合同声明⑩(Sykesら 2015年)

馬の胃潰瘍は、その一連の検査所見や症状から、馬胃潰瘍症候群EGUS:Equine Gastic Ulcer Syndromeと呼ばれるようになってきました。

ヨーロッパの大学の馬内科医による成馬の馬胃潰瘍症候群EGUSに関する合同声明が2015年に発表されていますので、これについて少しずつ書いていきます。

なお、Pubmed、JVIMから全文を読むことができますのでリンクよりご確認ください。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

“治療と予防

薬学的な予防

 ESGDの薬学的な予防アプローチは治療と同様の方法である。予防は症例ごとに異なるが、リスク因子に関与できそうなら、追加の治療が必要なくなる。緩衝剤または腸溶剤入りの製剤のオメプラゾール1mg/kg投与が予防量として用いられる。

 現在、EGGDの予防に関する特定のガイドラインはできていないが、オメプラゾールの予防効果は不明である。近年の研究で、1-4mg/kgのオメプラゾールで治療したにもかかわらず、23%のグレードが悪化した。興味深いことに、ヒト医療においても、ピロリ菌陰性およびNSAIDsの関与していない胃潰瘍について、長期的な酸抑制治療の効果には疑問がある。これを書いている時点で、EGGDの予防に果たすオメプラゾールの役割は不明である。しかしはっきりするまではESGDの推奨投与法に従うのも理にかなっている。

 

機能性食品

 機能性食品は、使いやすく手に入りやすいことから魅力的である。実験的にペクチンレシチンを混合したものが投与され、胃液内の粘液量が増加することが示された。絶食によるESGD発症モデルを用いた2つの研究では保護効果は示されなかったが、最初の小頭数の研究では期待が持てた。最近では、抗酸剤(水酸化マグネシウム)とペクチン-レシチン混合物と出芽酵母との組み合わせが、ESGDおよびEGGDに対して予防効果が期待できると示された。同様に、有機酸塩とビタミンBを含むサプリがESGDの治療に効果があることや、絶食により再現したEGGDモデルに対して、サジー(シーバックソーン)に発症予防効果があることが分かった。抗酸剤は症状の緩和効果もある程度あるが、その効果は2時間以内と短く、単独で用いるのはよくない。

 

栄養管理

 前述したのと同様に、いくつかの栄養管理には強力に支持する根拠が欠けているものもあることを認識しておかねばならない。以下に示す指針は、現在手に入る情報をもとに専門委員会が最良の方法について意見を集約したものである。さらにいえば、今日までEGGDにおいて食物が果たす役割についての根拠はほとんどなく、以下の指針はESGDのリスク因子とされるものに基づいている。

 以下の指針を支持する根拠には矛盾があるが、良質な放牧地にいつでも行けるのが理想である。草を自由採食またはあたえる回数を多くする(1日4-6食)ことで代替できる。馬は1日に最低でも乾燥重量で1.5kg/100kgの草を食べる。EGUSのリスクがある太った馬やポニーではエネルギー量の低い乾草を1.5kg/100kg与える。低エネルギーの乾草がてにはいらないときは、乾草とわらを混ぜて4回に分けて与えることで代用できる。わらだけを与えるのは避け、乾燥重量で0.25kg/100kgを超えない範囲で他の草と混ぜて使うべきである。

 穀物や濃厚飼料の給餌は極力少なくするべきである。糖を含むエサは少なくすべきで、1回のエサに1-2kgを超える量の糖があると大量の揮発性脂肪酸が発生する。発酵による揮発性脂肪酸を防ぐために、大麦やオーツ麦などに替えた方がいい。1日の糖摂取量は2g/kgを超えるべきではなく、1回あたりの糖摂取量も1g/kgを超えるべきではない。濃厚飼料は6時間以上間隔を空けて与えるべきである。

 コーン油などの植物油はEGGDリスクを下げる。胃に管を設置したポニーに毎日45mlのコーン油をシリンジで与えたところ、油を与えなかったポニーと比較して、有意な胃酸分泌量の低下と胃液内のプロスタグランジン濃度上昇が認められた。この効果に臨床的関連性があるかは、自然発症したEGGDの治療に用いた研究で評価する必要がある。水はいつでも飲めるようにしておくべきである。電解質ペースト剤や高張液の経口投与でESGDのリスクが増加することが知られているが、飼葉に混ぜたり低用量で水に混ぜたりすれば問題ない。したがって、電解質は飼葉に混ぜて使えば安全と考えている。”