育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

遠位足根間関節骨関節炎に対するエタノール注入療法(Lamasら 2012年)

遠位足根間関節の骨関節炎は、進行性で慢性的な跛行を示します。

これを解消するため、関節固定・不動化が試みられます。インプラントや外科手技による物理的な方法もありますが、今回はエタノールを用いた科学的な方法の成績をまとめた文献を紹介します。

 

対象となった症例について

この文献に組み入れられた症例は、足根中足関節および中心遠位足根関節の骨関節炎と診断されていました。この診断は、関節内への局所麻酔薬投与に基づいていました。

単純X線における飛節の骨棘や骨増生、骨硬化などの所見は多くの馬で認められますが、その臨床的意義を確かめるには関節内麻酔が必須とされています。

関節内への抗炎症薬であるステロイドの投与は、馬臨床では一般的に行われている方法です。しかし、一時的に炎症を緩和する作用はあっても、根本的にその原因にアプローチする方法ではありません。今回は、ステロイド投与により良化は認められたものの、短期間で再度跛行した症例を対象としています。

 

関節内エタノール注入の成績

治療後6-9ヵ月の期間において、11/21(52%)で跛行は改善したが、4/21(19%)では跛行が悪化した。跛行が悪化したうち2頭は治療に関連した合併症。

 

まとめ

確実に関節内に投与するためには、関節穿刺後にX線造影剤による確認が不可欠である。

なかなか改善しない跛行に対して、経済的に有利な治療の選択肢となり得る。

 

 

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

“要約

研究を実施た理由

 遠位足根関節の関節固定を促進する方法として、関節内のエタノール注入が報告されている。実際の臨床例の骨関節に対する使用やその成績は報告されていない。

 

目的

 関節内のエタノール投与により関節固定を誘導して治療した、遠位足根関節の骨関節炎の結果を記述し評価すること。

 

方法

 関節内麻酔により、足根中足関節および中心遠位関節の骨関節炎と診断し、関節内のコルチコステロイド投与後4ヵ月以内に跛行が再発しX線検査を行った24症例を組み入れた。鎮静下で足根中足関節に造影X線検査で関節内に投与できることを確認したのちに、2-4ml量の100%エタノール(G100)または70%エタノール(G70)を投与した。処置後、運動負荷を増し、初めの跛行グレードが50%以上減少した馬を改善と分類した。

 

結果

 本研究に組み入れた24頭のうち、20頭は両側、4頭は片側の関節に処置した。全頭で最初の追跡調査が可能で、治療後6-9か月後の調査は21頭で可能であった。処置を行った44肢のうち、長期追跡調査は35肢で可能であった。このうち、11頭/21頭(52%)、21肢/35肢(60%)は改善が見られた。4頭(19%)は跛行が悪化し、このうち2頭は治療に関連した合併症を発症した。

 

結論

 エタノールによる遠位足根関節の関節固定は、関節内ステロイド投与で長期的な改善が見られなかった症例に対して、経済的で安全な治療法となる。

 

潜在的関連性

 遠位足根関節の骨関節炎症例のいくつかは、エタノールによる治療が考慮されるべきである。造影X線検査による適切な関節の評価を、投与前に行っておくことの重要性が強調された。”