育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

肩甲骨骨折を発症した競走馬の特徴(Vallanceら 2012年)

競走馬に発生する上肢の骨折は、比較的レース経験の浅い若い馬に多く発生することが報告されています。

equine-reports.work

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肩甲骨骨折においても同様の報告がなされており、サラブレッドでは競走中だけでなく調教中にも多く発生することが明らかとなりました。また、出走回数の少ない未勝利戦出走馬に多く発生することも示されました。

上腕骨や肩甲骨は、先に疲労骨折が発生し、さらに大きな負荷がかかることで完全骨折へと移行すると考えらえています。順調に調教が進まず、結果的に出走回数が少なくなることにも関連しているかもしれません。

 

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 研究を実施した理由

 肩甲骨骨折を発症する馬に明らかな特徴があるか明らかにするため。

 

目的

 サラブレッドとクォーターホースの競走馬で肩甲骨骨折を発症する馬には、共通した特徴があり、同じ競馬場で走っている競走馬とは異なるものであるという仮説を検証すること。

 

方法

 剖検所見、症例の詳細、最後に出走した情報、生涯獲得賞金について、サラブレッドおよびクォーターホースの競走馬について1990年から2008年の期間で調査し、種間の比較を行った。シグナルメント、生涯獲得賞金、出走数、競走の特徴はカリフォルニアのすべての競走馬について調べた。この19年間でカリフォルニアで出走したすべての競走馬と骨折発症馬および死亡した馬と比較した。

 

結果

 73頭のサラブレッドと28頭のクォーターホースの競走馬は、肩甲骨骨折は共通していて、関節面におよぶ完全粉砕骨折で、右前肢が多かった。出走当たりの骨折発症率は、クォーターホースのほうがサラブレッドより高かった(0.98vs0.39/1000回)。致命的な運動器疾患の出走当たりの発生率はサラブレッドが20.5/1000、クォーターホースが17.5/1000であった。しかし、サラブレッドの致命的な運動器疾患の多くが調教中に発生した(40%vs8%)。肩甲骨骨折は牡馬に多く、2歳時または5歳以上の馬で多く発生した。クォーターホースのほとんど(64%)は2歳馬で、サラブレッドでは74%が3歳以上であった。肩甲骨骨折はクォーターホースでは70%、サラブレッドでは44%が競走中に発生した。レース中の肩甲骨骨折は、未勝利戦(Maiden race)のほうが、それ以外より多く発生した。肩甲骨骨折発症馬の生涯出走数は少なかった。

 

結論と潜在的関連性

 シグナルメントや運動する距離が種によって異なっていたが、どちらの種でも肩甲骨の完全骨折は若齢または高齢で、オスの、競走初期または数回走った後で発生していた。サラブレッドよりもクォーターホースのほうが壊滅的な肩甲骨骨折が発症しやすい。