育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

肩甲骨完全骨折発症馬の運動歴(Vallanceら 2013年)

競走馬に発生する上肢の骨折は、比較的レース経験の浅い若い馬に多く発生することが報告されています。

equine-reports.work

equine-reports.work

equine-reports.work

 

肩甲骨骨折においても同様の報告がなされており、調教の遅れている未出走のサラブレッドにはリスクが高いこと、長期の休養期間を挟んで調教や出走を再開した馬や、長期間スピード調教やレースを継続している馬も高リスクとなることが示されました。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

研究を実施した理由

 壊滅的な肩甲骨骨折に関連する運動パターンを同定すれば、競走馬の事故を予防することができる。

 

目的

 サラブレッドおよびクォーターホースの競走馬における肩甲骨骨折と関連する運動パターンがあるか明らかにすること。

 

方法

 65頭のサラブレッドおよび26頭のクォーターホースの競走馬および2頭のコントロールとなる競走馬について、高速運動の履歴を調査した。運動の変数は、生涯のレースと、公式の調教レポートから作成した。運動の変数と肩甲骨骨折の関連は、条件付きロジスティック回帰解析を用いて調査した。

 

結果

 サラブレッドの肩甲骨骨折発症馬は、調教の回数、調教と出走の回数、平均走行距離が、クォーターホースの骨折発症馬より多かった。クォーターホースでは、調教の頻度が低く、少ない回数で距離が長かった。生涯出走回数、距離、レース間隔、1回以上の休養がある馬の休養期間について、種による差は認められなかった。どちらの種でも、骨折馬では調教と出走が少なく、直近の距離が少なく、調教している日数が少なかった。一方で、サラブレッドのうち10回以上出走がある馬では、休養後長く出走していた。休養期間のあったクォーターホースでは、合計および平均休養回数は骨折症例のほうが多かった。大変量解析モデルにおいて、肩甲骨骨折発症のオッズ比は、未出走のサラブレッドで高く、オッズ比23.19(95%信頼区間3.03-177.38)であった。また、出走回数の多いクォーターホースではオッズ比は0.71(95%信頼区間0.54-0.94)と低かった。

 

結論と臨床歴関連性

 高速調教が始まった時期の競走馬の集団で後れている馬は、肩甲骨のストレスリモデリングの症状がないか調査すべきである。長期間休養のあるクォーターホースや、長期の高速調教に耐えているサラブレッドは、調教している集団の中でもリスクが高い。