これまでに、競走馬において未出走や調教開始から間もない時期に上腕骨、脛骨、肩甲骨などの疲労骨折が多く発生することは紹介しました。
これらの骨折は十分な休養期間とリハビリ期間を設けることで運動復帰できることが示されてきました。それでは競走パフォーマンスはどうでしょうか。これについて、香港の競走馬について解析した報告があります。
この文献では、馬産を行わない香港の競馬産業の特色から、輸入後1年以内に核シンチグラフィ検査で診断した疲労骨折の馬に限定した解析を行いました。疲労骨折は42%が上腕骨、28%が脛骨に発生していて、はやりこれらの骨が発症しやすいことが示されました。また、骨折により調教を休まなければならなくなり、同時期の骨折のない馬と比較すると、骨折から1年以内に出走できる回数や獲得賞金は少なくなりました。しかしながら、競走寿命(現役でいられる期間)には差がなく、競走馬として活躍できることが示されました。
参考文献
背景
競走馬において、調教を始めた最初の12ヵ月間や、休養後に調教を再開したときは疲労骨折のリスクが高い。このような高リスクの時期に関する調査やその後のパフォーマンスへの影響に関する調査は限られている。
目的
香港において、調教開始から12カ月間における、核シンチグラフィ検査で診断した競走馬の疲労骨折発生、および競走パフォーマンスと競走期間への影響を記述すること。
研究デザイン
回顧的、1:2マッチの症例対照研究
方法
2006-2018年の期間で、輸入から365日以内に核シンチグラフィ検査で診断した疲労骨折症例馬の臨床検査記録を調査した。症例と対照は輸入日がマッチする馬とした。単変量条件付きロジスティック回帰解析を用いて、症例と対照のシグナルメント、骨折前の調教、復帰後の競走パフォーマンスを比較した。共用異質性コックス回帰解析により、輸入から骨折までの時間および生涯競走期間を比較した。
結果
香港において、初めの1年で核シンチグラフィ検査で診断した疲労骨折は87頭で認められ、発生リスク1.7%(95%信頼区間1.4-2.1%、N=5180)。最も多かった部位は、上腕骨(42.0%、95%信頼区間:31.8-52.6%、39頭)および脛骨(28.0%、95%信頼区間:19.1-38.2%、26頭)であった。骨折により調教できなかった期間は、中央値63日(四分位範囲49-82日)であった。診断から12ヵ月の期間で、対照馬と比較して骨折症例では出走回数が中央値4回(四分位範囲2-4回、P<0.0001)少なく、獲得賞金は206,188香港ドル(四分位範囲0-436,800、P=0.007)と低かった。競走寿命には有意差はなく、中央値2年と3ヵ月(四分位範囲15.3-39.1ヵ月、P=0.2)であった。
主な制限本研究では核シンチグラフィ検査で診断した疲労骨折のみを含んでいて、香港の競走馬におけるすべての疲労骨折についての研究ではない。
結論
香港に輸入されて1年以内の競走馬では、疲労骨折を発症することで調教期間や獲得賞金、出走回数は有意に失われた。しかし、競走寿命への影響はなかった。