育成馬臨床医のメモ帳

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サラブレッド競走馬における上腕骨疲労骨折の部位とその後のパフォーマンス(Hendersonら 2020年)

上腕骨疲労骨折は若い競走馬の遠位や近位尾側によくみられることが知られていますが、その後の競走成績まで調査した文献はこれが初めてです。

 

文献のハイライト 

疲労骨折と診断された年齢は平均3-4歳であり、若い競走馬に多いことが再確認された。

また約6割が未出走サラブレッドであったことも過去の報告と一致している。

出走までの期間は平均約8か月で、競走復帰率は84.0%であり、ある程度の長さのリハビリ期間をとれば良好な予後が得られる。

復帰後の成績が明らかに劣るということはないが、群間で比較すると、近位尾側の疲労骨折では獲得賞金が少ないようである。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

“要約

目的

 サラブレッド競走馬において、上腕骨疲労骨折の部位が、競走復帰までの時間および損傷後の競走パフォーマンスに与える影響を評価すること。

 

研究デザイン

 1992-2015年で行った回顧的研究

 

サンプル

 シンチグラフィまたはX線検査で診断した、上腕骨疲労骨折による跛行を示したサラブレッド競走馬131頭

 

方法

 性別、骨折部位、年齢、出走回数、獲得賞金、1走あたり平均賞金について、骨折の診断前後で全体およびそれぞれの骨折部位で一般線形モデルおよびχ二乗検定を用いて差を評価した。骨折部位について骨折前後でパフォーマンスを以下のように評価した。①骨折前後の獲得賞金について、Kruskal-Wallis1元配置分散分析、骨折前の1走あたり平均賞金、骨折後の1走あたり平均賞金をウィルコクソンの符号順位検定で比較した。

 

結果

 疲労骨折の部位は、遠位尾側36頭、遠位頭側43頭、近位尾側52頭であった。131頭中54頭は骨折前に出走歴があり、110頭は骨折後に出走した。診断時の月齢は、遠位尾側が43.61ヵ月、近位尾側33.48ヵ月、遠位頭側36.65ヵ月であった。競走復帰までの期間は中央値244日(218-272日)であった。骨折後の1走あたり獲得賞金は、遠位尾側のほうが近位尾側と比較して多かった(P=0.04)。

 

結論

 骨折前の賞金は、部位、性別、患肢による違いはなかった。骨折部位による競走復帰までの時間にはばらつきはあったが有意な差ではなかった。骨折前後の獲得賞金の差は有意ではなかった。競走復帰したなかで、遠位尾側の疲労骨折は、近位尾側の疲労骨折と比較して獲得賞金が有意に多かった。

 

臨床的関連性

 サラブレッド競走馬において、上腕骨疲労骨折はその部位によらず競走復帰の予後は良好であった。”