育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

競走馬の第一指骨の骨折形状とその治癒(Smithら 2014年)

第一指骨の傍矢状骨折は、競走馬で最もよく見られるタイプの骨折です。内固定手術による良好な運動復帰の成績が報告されていますが、実は骨折形状を把握しておくことは、予後を判断するうえで重要である可能性が指摘されていて、しかもそれは受傷直後には同定できないものである可能性が示されています。

 

“術後に骨折の形状に変化がみられた”とは

 この文献に含まれる症例のほとんど(88/121)は、骨折診断時に第一指骨の中央まで達する長い不完全骨折でした。完全骨折と長い不完全骨折を内固定し術後継続的にX線検査を行ったところ、長い不完全骨折の77%で骨折線の遠位方向への伸長が認められました。また、側方への伸長も認められました。

 原因として考察されているのは覚醒時の負荷ですが、手術直後には骨折線の伸長が見られた症例はなかったため、可能性は低いです。筆者らは、骨吸収による骨折陰影の伸長であると考えていて、これを支持する同様の現象として、数週間後に短い骨折線が観察できるようになることを挙げています。

 また、筆者らは骨折線が同様でも整復後の歩様が大きく異なる症例を経験しており、症状が真の骨折線を反映している可能性があると考えています。

 骨折線が伸長したように見えても、内固定は良好に維持されていて、ほとんどの骨折で100日以内に骨折線の治癒は完了したことは重要です。

 

  

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

“要約

研究を実施した理由

 トレーニングしているサラブレッド競走馬において、第一指骨の骨折はもっともよくみられる長骨骨折のひとつだが、その形態のバリエーションやX線検査でのその後の様子についての情報は限られている。

 

目的

 サラブレッド競走馬における第一指骨傍矢状骨折の形状を詳細に記述すること、競走馬におけるこの骨折の発生頻度を報告すること、内固定した症例の骨折治癒の進行を記録すること。

 

研究デザイン

 回顧的症例集

 

方法

 2007-2011年に、NEHに来院したサラブレッド競走馬の第一指骨傍矢状骨折の症例の医療記録とX線画像を解析した。

 

結果

 120頭のサラブレッド競走馬で、121の骨折を診断した。損傷直後よりもより複雑な骨折が頻繁にみられ、これはこれまでの報告にはない特徴であった。また、2-3歳の骨折には季節性があったが、それ以上の年齢ではみられなかった。

 

結論と潜在的関連性

 第一指骨の骨折は、これまでに認識されていたよりも複雑なのかもしれない。そしてそれらは、損傷直後のX線検査では同定できない可能性がある。2-3歳馬で季節性が見られたのは、英国における芝レースの開催時期によるものである可能性が高い。”