育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

フェニルブタゾンによる馬のCOX遺伝子発現への影響(Nietoら 2012年)

馬でよく使用されるNSAIDsのひとつであるフェニルブタゾン(よくビュートと呼ばれる)は、シクロオキシゲナーゼCOXを非選択的に阻害します。COXは炎症を強めるプロスタグランジン(主にPGE2)の合成を行うため、これを阻害することによりフェニルブタゾンの抗炎症効果が得られるわけですが、一方で体内恒常性維持に必要なプロスタグランジン(PGA-PGJまである!)などの合成も阻害されてしまうことで副作用が出てしまうと考えられています。

 

 

Effects of phenylbutazone on gene expression of cyclooxygenase-1 and -2 in the oral, glandular gastric, and bladder mucosae of healthy horses

Jorge E Nieto, Monica Aleman, Jonathan D Anderson, Ciara Fiack, Jack R Snyder

Am J Vet Res. 2012 Jan;73(1):98-104. doi: 10.2460/ajvr.73.1.98.

 

“要約

目的

 口腔、胃腺部および膀胱の粘膜におけるCOX1および2の遺伝子発現量を評価すること。また、フェニルブタゾンを経口投与した際の遺伝子発現への影響を明らかにすること。

 

動物

 12頭の健康な馬

 

方法

 馬は、フェニルブタゾン投与群とプラセボ投与群に、それぞれ6頭ずつ振り分けた。プラセボ群で1頭膀胱結石を発症したため研究から除外しデータを外した。それぞれの馬で、投与前後に胃および膀胱を内視鏡で検査した。口腔、胃腺部および膀胱粘膜の生検検体は、口腔粘膜は皮膚パンチ生検の機器を用い、胃腺部および膀胱粘膜は内視鏡下で採取した。フェニルブタゾンは4.4mg/kg PO 12時間ごとにコーンシロップに混ぜて投与し、プラセボにはコーンシロップのみ投与した。どちらも7日間投与し、上記の方法で生検を行った。投与前後の検体から、定量PCRによって遺伝子発現量を求め、群間および群内で比較を行った。投与開始前に7頭から得た検体を用いて、組織間での比較に用いた。

 

結果

 採取したすべての検体からCOX1の遺伝子発現が認められた。COX2遺伝子は、胃腺部および膀胱粘膜で発現がみられたが、口腔粘膜ではみられなかった。COXの遺伝子発現は、フェニルブタゾン投与による影響は受けなかった。

 

結論と臨床的関連性

 健康な馬において、胃腺部および膀胱粘膜では一貫してCOX2遺伝子発現がみられたが、口腔粘膜ではみられなかった。フェニルブタゾンの経口投与の最大推奨投与量を7日間投与しても、COX1および2の遺伝子発現に影響はなかった。”

 

 

*遺伝子発現量が変わらないとはどういうことか

この文献では、「NSAIDsであるフェニルブタゾンを投与しても、COX1や2の遺伝子発現量は変わらなかった」と結論づけられています。注意が必要なのは、NSAIDsのターゲットは何か、ということです。つまり、「NSAIDsが直接作用するのはCOXという酵素であり、COXの遺伝子発現を直接的に抑制する働きはない」です。したがって、この情報だけで副作用として胃潰瘍が発症する要因となるかどうかを推測することは困難です。結局は、フェニルブタゾンを投与している期間に、“恒常性維持に必要なPGsがどれだけアクティブに機能できているか”が問題なのですが、それを生体で評価することは大変難しいのです。