育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

重度の僧帽弁逆流症の臨床、心エコーおよび病理所見(Reefら 1998年)

うっ血性心不全に共通する臨床症状は、運動不耐性、呼吸器症状、発熱で、これらを認める高齢馬には注意が必要です。

 

重度の僧帽弁逆流症があり、うっ血性心不全のある馬は、臨床的にどのような病態になっているのでしょうか。

 

重篤な僧帽弁逆流症の症例についてまとめた文献では、複数の弁逆流症が合併していることが多く、また肺高血圧を示唆する所見も認められるとされています。不整脈も併発しており、これが制御できない場合には非常に予後が悪いです。

 

心エコー検査で評価されているのは弁の逸脱や震えで、これは死後の剖検で弁を支える腱索構造の破綻と一致することが示されました。また、肺動脈の横断径が増加している場合、重度の肺高血圧症で認められる肺動脈の拡張所見と一致しており、危険な予後因子であることが示されました。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

“要約

僧帽弁逆流MRがあり、うっ血性心不全所見を伴う43頭の馬について、Mモード、Bモード、ドップラー心エコー検査を用いて評価した。一般的に来院する馬と比較して、血統や年齢の偏りはなかった。平均年齢は7.6±8.1歳であった。うっ血性心不全を伴うMRの症例では、左心室腔の大きさ、左心房の大きさ、心拍数に有意な増加が見られ、心室中隔および左心室自由壁の厚みは有意に減少した。大動脈径と比較して、肺動脈径には有意な増加がみられた。左室内径短縮率FSは正常馬と明らかな差はなかった。すべての馬でG3-5/6の心雑音が、僧帽弁から大動脈弁を最強点として聞こえた。来院時に24頭で心房細動がみられた。1頭は心房性頻脈として来院したが、結果的に心房細動となった。7頭で心室性期外収縮がみられた。最も共通してみられた臨床症状は、運動不耐性(34頭)、呼吸器症状(31頭)、発熱(21頭)であった。僧帽弁の弁葉の肥厚、心内膜炎、弁葉の震え、腱索の断裂、僧帽弁逸脱が心エコーでみられた。ドップラー心エコーにおいて、左心房内に大きな逆流血が描出された。多くの症例で、三尖弁および肺動脈弁の逆流が同時にみられた。すべての馬は死亡または治療に反応しないか重度のMRのために安楽死となった。死後の調査は35頭で行え、心エコー所見の確認を行った。心エコーで弁葉の震えがみられたことは、剖検で腱索の断裂がみつかることと有意な相関があった。肺動脈の拡張所見が心エコーで検出された馬は、剖検で実際に確認された。Mモード、Bモード、ドップラー心エコーは、弁の異常を正確に特徴を把握し、僧帽弁逆流の重症度を評価するために用いるべきである。重度の肺高血圧を示唆する肺動脈の拡張所見は、危険な予後因子であり、肺動脈の破裂が差し迫っていることを示唆している。”