育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

指屈腱鞘炎に関連した深屈腱炎(Barrら EVJ1995年)

球節掌側のぷにぷにとした柔らかい腫脹は、腱鞘の腫れが主体です。これにはさまざまな原因があり、目に見える症状は共通していても、原因によってとるべき治療法が異なる場合があります。

超音波検査は、この腱鞘内を観察するのに優れた検査方法です。腱鞘内を走行する腱実質の損傷、滑膜の肥厚、フィブリンの析出などを観察することが可能です。しかしそれでも原因がはっきりしない場合には、診断的に腱鞘鏡手術を行い、直接病変を評価し処置することもあります。

 

 はじめに

指(趾)屈腱鞘 digital sheath とは 

digital sheath

digital flexor tendon sheath

 

指屈腱鞘は球節掌側に位置し、浅屈腱、深屈腱、輪状靭帯と関連する滑液嚢です。

また、腱鞘内にも屈腱袖(Manica Flexoria)という構造があり、非常に複雑です。

   

腱鞘炎の症状

腱鞘内の腱、腱鞘、滑膜などの損傷から炎症が起き、腱鞘液が増加します。

腱鞘液の増量のみ認められる症例が多いですが、なかには軽度から中程度の跛行がみられることがあります。腱実質の損傷による疼痛、または輪状靭帯による締めつけ(拘縮)を原因とする疼痛などが跛行の原因と考えられます。

 

文献で明らかになったこと 

超音波検査で診断できる所見

球節領域での深屈腱を超音波検査で評価した。深屈腱にみられる損傷の所見は、小さく、境界明瞭で、多くは円形で巣状の低エコー領域として認められた。長軸断面では近位から遠位方向に1cmの長さで認められた。

 

治療法と成績

全頭で保存的治療が採用され、舎飼いと制限した運動により症状が改善した。しかし、運動復帰したり広い放牧地で走り回ったりするようになると、臨床症状やエコー所見は悪化することが多かった。

   

 引用文献

Tendonitis of the deep digital flexor tendon in the distal metacarpal/metatarsal region associated with tenosynovitis of the digital sheath in the horse

A R Barr, S J Dyson, F J Barr, J K O'Brien

Equine Vet J. 1995 Sep;27(5):348-55. doi: 10.1111/j.2042-3306.1995.tb04069.x.

 

 

“要約

 7年間で、24頭で前肢と後肢の球節領域で深屈腱炎の超音波検査所見を認めた。ほとんどの馬は、患肢の軽度から中程度の跛行と、指屈腱鞘の腫脹を認めた。指屈腱鞘内の局所麻酔によって、一貫して跛行の程度は改善した。超音波検査で最も共通して見られた所見は、深屈腱内の小さく、境界明瞭で、円形が多く巣状の低エコー領域がみられ、近位から遠位方向に1cmの長さで認められた。跛行や腫脹は、舎飼いと運動制限により多くは改善したが、運動復帰したり、放牧地で自由に運動させたりすると、臨床症状やエコー所見は悪化することが多かった。24頭のうち、7頭は完全に回復し、意図した運動に復帰できた。”