球節掌側のぷにぷにとした柔らかい腫脹は、腱鞘の腫れが主体です。これにはさまざまな原因があり、目に見える症状は共通していても、原因によってとるべき治療法が異なる場合があります。
超音波検査は、この腱鞘内を観察するのに優れた検査方法です。腱鞘内を走行する腱実質の損傷、滑膜の肥厚、フィブリンの析出などを観察することが可能です。しかしそれでも原因がはっきりしない場合には、診断的に腱鞘鏡手術を行い、直接病変を評価し処置することもあります。
はじめに
指(趾)屈腱鞘 digital sheath とは
指屈腱鞘は球節掌側に位置し、浅屈腱、深屈腱、輪状靭帯と関連する滑液嚢です。
また、腱鞘内にも屈腱袖(Manica Flexoria)という構造があり、非常に複雑です。
腱鞘炎の症状
腱鞘内の腱、腱鞘、滑膜などの損傷から炎症が起き、腱鞘液が増加します。
腱鞘液の増量のみ認められる症例が多いですが、なかには軽度から中程度の跛行がみられることがあります。腱実質の損傷による疼痛、または輪状靭帯による締めつけ(拘縮)を原因とする疼痛などが跛行の原因と考えられます。
文献で明らかになったこと
超音波検査で診断できる所見
球節領域での深屈腱を超音波検査で評価した。深屈腱にみられる損傷の所見は、小さく、境界明瞭で、多くは円形で巣状の低エコー領域として認められた。長軸断面では近位から遠位方向に1cmの長さで認められた。
治療法と成績
全頭で保存的治療が採用され、舎飼いと制限した運動により症状が改善した。しかし、運動復帰したり広い放牧地で走り回ったりするようになると、臨床症状やエコー所見は悪化することが多かった。
引用文献
A R Barr, S J Dyson, F J Barr, J K O'Brien
Equine Vet J. 1995 Sep;27(5):348-55. doi: 10.1111/j.2042-3306.1995.tb04069.x.
“要約
7年間で、24頭で前肢と後肢の球節領域で深屈腱炎の超音波検査所見を認めた。ほとんどの馬は、患肢の軽度から中程度の跛行と、指屈腱鞘の腫脹を認めた。指屈腱鞘内の局所麻酔によって、一貫して跛行の程度は改善した。超音波検査で最も共通して見られた所見は、深屈腱内の小さく、境界明瞭で、円形が多く巣状の低エコー領域がみられ、近位から遠位方向に1cmの長さで認められた。跛行や腫脹は、舎飼いと運動制限により多くは改善したが、運動復帰したり、放牧地で自由に運動させたりすると、臨床症状やエコー所見は悪化することが多かった。24頭のうち、7頭は完全に回復し、意図した運動に復帰できた。”