球節掌側のぷにぷにとした柔らかい腫脹は、腱鞘の腫れが主体です。これにはさまざまな原因があり、目に見える症状は共通していても、原因によってとるべき治療法が異なる場合があります。
超音波検査は、この腱鞘内を観察するのに優れた検査方法です。腱鞘内を走行する腱実質の損傷、滑膜の肥厚、フィブリンの析出などを観察することが可能です。しかしそれでも原因がはっきりしない場合には、診断的に腱鞘鏡手術を行い、直接病変を評価し処置することもあります。
はじめに
指(趾)屈腱鞘 digital sheath とは
指屈腱鞘は球節掌側に位置し、浅屈腱、深屈腱、輪状靭帯と関連する滑液嚢です。
また、腱鞘内にも屈腱袖(Manica Flexoria)という構造があり、非常に複雑です。
腱鞘炎の症状
腱鞘内の腱、腱鞘、滑膜などの損傷から炎症が起き、腱鞘液が増加します。
腱鞘液の増量のみ認められる症例が多いですが、なかには軽度から中程度の跛行がみられることがあります。腱実質の損傷による疼痛、または輪状靭帯による締めつけ(拘縮)を原因とする疼痛などが跛行の原因と考えられます。
治療法
保存的治療と外科的治療が採用されます。ある程度まとまった長期休養期間とリハビリプロトコルを経て運動復帰します。いったん症状が改善することもありますが、運動強度を上げると跛行や症状が再発することがあり、競技復帰の予後は五分(fair)です。
文献で明らかになったこと
非感染性指屈腱鞘炎の原因となるものは何か
76頭の非感染性指屈腱鞘炎に対して腱鞘鏡手術を行い、その所見を回顧的に調査することで原因を調査した。
最も多かったのは深屈腱の辺縁損傷(57.9%:44/76)で、次いで屈腱袖Manica flexoria(30.3%:23/76) が多く認められた。
成績
6ヵ月以上の追跡調査では、68%で跛行がなく、54%は術前のパフォーマンスレベルに復帰した。
腱鞘の腫脹は69%で改善がみられ、33%は消失した。
深屈腱の辺縁損傷、術前の顕著な腱鞘の腫脹およびオープンアプローチによる深屈腱損傷部の再建は、術後のパフォーマンス減退と関連していた。
深屈腱の辺縁損傷、術前の顕著な腱鞘の腫脹および臨床症状を示した期間の長さは、術後の腫脹改善が見られないことと関連していた。
臨床的な応用
指屈腱鞘内の損傷は、深屈腱の辺縁損傷および屈腱袖の損傷が多いが、これらは腱鞘鏡でのみ確定診断が可能である。また、腱鞘鏡視下では適切な治療を行うことができる。
引用文献
Noninfected tenosynovitis of the digital flexor tendon sheath: a retrospective analysis of 76 cases
Equine Vet J. 2006 Mar;38(2):134-41. doi: 10.2746/042516406776563350.
“研究を実施した目的
最近まで、非感染性の指屈腱鞘炎の病態形成は判然としていない。腱鞘鏡により、いくつかの誘因がわかってきたが、いまのところ、正確な診断が可能であった症例の報告はほとんどない。
仮説
腱鞘鏡手術により、非感染性指屈腱鞘炎の正確な診断と治療が可能になる。
方法
7年間で非感染性の指屈腱鞘炎として紹介され来院した全頭の記録を回顧的に調査した。追跡調査の情報は、電話による聞き取りで行った。
結果
合計76頭で、全頭腱鞘鏡で評価し、うち11頭はその後オープンで外科手術を行った。最も多い診断は、深屈腱の辺縁損傷(n=44)、次いで屈腱袖(manica flexoria)の損傷(n=23)であった。6ヵ月以上の追跡調査は61頭で可能であり、そのうち68%で跛行がなく、54%は術前のパフォーマンスレベルに復帰した。腱鞘の腫脹は33%が消失、69%で改善がみられた。深屈腱の辺縁損傷、術前の顕著な腱鞘の腫脹およびオープンアプローチによる深屈腱損傷部の再建は、術後のパフォーマンス減退と関連していた。また、深屈腱の辺縁損傷、術前の顕著な腱鞘の腫脹および臨床症状を示した期間の長さは、術後の腫脹改善が見られないことと関連していた。
結論
指屈腱鞘炎は、深屈腱、浅屈腱および屈腱袖(manica flexoria)の損傷または滑液嚢内の他の構造の損傷に起因する。いまのところ、これらは腱鞘鏡でのみ確定診断が可能で、さらに適切な損傷管理もできる。
潜在的関連性
腱鞘鏡によって、診断情報が得られること、治療オプションとなることから、非感染性の指屈腱鞘炎では早期に腱鞘鏡を行うことは正しい。”