神経ブロックに使われる局所麻酔薬は、その作用時間が異なることが知られています。
臨床現場で診断するために必要な情報は、いつから効果が出て、いつまで効果が続くのか、ということです。
このことに関して、実験的に再現した可逆的な跛行モデルに対して、メピバカインを用いた神経ブロックにより跛行が改善する時間を検証した研究があります。
はじめに
神経ブロックとは
神経伝達の通り道を一時的に遮断することで疼痛を感じなくさせます。ブロックした位置より肢端の感覚がなくなるため、跛行の原因となる疼痛部位を特定することが可能となります。
神経ブロックの投与部位と感覚消失部位のイメージ図
それぞれのブロックと対応する色の線よりも下肢部の感覚が一時的に消失します。
掌側指神経ブロック
掌側神経は、種子骨軸外側の領域で背側枝が分岐し、それより遠位は掌側指神経となります。
神経は、動脈および静脈と平行して走行しており、リンパ管も近くを通っています。
掌側指神経が支配する蹄から繋の掌側領域の感覚が一時的に消失します。
文献で明らかになったこと
実験内容
蹄に圧迫をかけるクランプを装着して、きつく締めることで実験的に可逆的な跛行を再現した。フォースプレートという触れたものから受ける力を計測する板を用意し、その上を歩かせた。痛い肢にはできるだけ負重しないように歩くため、フォースプレートが受ける力は減少した。神経ブロックにより疼痛を感じなくなると、肢に負重するようになりプレートが受ける力が増えた。このことを利用し、神経ブロックの効果が持続する期間を評価した。
神経ブロックが有効な期間は
メピバカインを用いた掌側神経ブロックにより実験的に再現した跛行は、投与後15分から1時間の間で対側と差のない負重が可能になった。
投与後2時間ではまだ影響が残っていたが、24時間経過すれば神経ブロック前と差がなかった。
臨床的な応用
臨床的な神経ブロックの評価は投与後15分から1時間の間に行うことが望ましい。
引用文献
Mepivacaine local anaesthetic duration in equine palmar digital nerve blocks
L A Bidwell, K E Brown, A Cordier, D R Mullineaux, H M Clayton
Equine Vet J. 2004 Dec;36(8):723-6. doi: 10.2746/0425164044848154.
“要約
研究を実施した理由
神経周囲麻酔は、跛行診断に用いられているが、その効果の持続期間およびブロックをする際にこれを知っておくことで価値のある情報が得られるかはわかっていない。
目的
フォースプレートによる計測を用いて、掌側指神経ブロックの持続時間を評価すること。
方法
片側のナビキュラー症候群と診断した馬10頭を用いて、3±0.15 m/sでフォースプレート上を速歩させ、各肢で5回計測した。データは、神経ブロック前、ブロック後15分、1,2,24時間で計測した。
結果
神経ブロック前、垂直方向にかかる力のピーク値は、跛行のある肢(4256±204N)よりも対側肢 (5345±188N)のほうが有意に大きかった(P<0.05)。神経ブロック後15分では、ブロックした肢(5126±129N)と対側肢(5140±184N)の間に差はなく、これは投与後1時間も同様であった。投与後2時間までに、跛行していた肢からからかかる力は4642±182Nまで減少したが、ブロック前よりも高い値であった。投与後24時間では垂直方向にかかる力はブロック前に戻った。
結論
掌側指神経ブロックは投与後15分から1時間の間で十分効果がある。鎮痛効果は1-2時間以内に薄れるが、2時間以内であれば歩様に影響するには十分な鎮痛効果が残っている。
潜在的関連性
掌側指神経ブロックを用いるときには、神経ブロックが効果的である保証がある投与後15分から1時間の間に跛行を評価することが重要である。”