これまでにさまざまな方法で局所麻酔薬の拡散が検証されてきました。その多くは神経周囲に投与した場合の拡散範囲でした。
一方で関節または滑液嚢内に投与した場合は、その部位で留まるため特異性の高い方法と考えられていました。
しかし、腕節や飛節のように複数の関節から成る大きな関節や、滑液嚢が隣り合う場合には、これらが連続していて、複数の組織に麻酔薬が影響する可能性があります。
これまでは関節や滑液嚢の連続性を評価するにあたり、解剖体にラテックスやメチレンブルーなどの染色液を投与したり、生体に対してX線造影剤を投与したりしていました。しかしこれらはメピバカインと分子量や化学的性質が異なることから、拡散の様子が異なる可能性があり、臨床的には実際にメピバカインがどこまで移行しているか確認する必要がありました。
文献によると、メピバカインは、ラテックスやメチレンブルーの様な代替品よりも滑液嚢内を拡散するようです。
また、手根間関節と橈骨手根関節および手根中手関節との連絡が確認されたことから、繋靭帯近位付着部で直接診断麻酔を行った場合、腕節全体への影響を考慮する必要がありそうです。
引用文献
M R Gough, G Mayhew, G A Munroe
Equine Vet J. 2002 Jan;34(1):80-4. doi: 10.2746/042516402776181097.
“要約
この論文は、馬の前肢において、局所麻酔薬であるメピバカインを投与したときに隣り合う滑液嚢を拡散するし、その頻度はラテックス、ゼラチン液、X線造影剤よりも多いという仮説を検証するものである。筆者らは31頭の新鮮な解剖体を用いて、前肢の遠位指節間関節とナビキュラー滑液嚢の間、および手根間関節と橈骨手根関節の間でメピバカインが拡散する発生率を報告する。
1頭の前肢で片方は遠位指節間関節に、もう一方はナビキュラー滑液嚢にメピバカインを投与した。また、片方は手根間関節に、もう一方には橈骨手根関節にメピバカインを投与した。関節を屈伸させた後、それぞれ投与した部位と隣り合う滑液嚢から滑液を採取した。それぞれの検体のメピバカイン濃度はELISAにより測定した。滑液は希釈したが、それは血中尿素と希釈した滑液嚢中尿素との比をもとにメピバカイン濃度を求めた。
メピバカインは、遠位指節間関節とナビキュラー滑液嚢の間で、25/25肢(100%)の拡散がみられた。また、手根間関節から橈骨手根関節へは24/25肢(96%)で拡散し、橈骨手根関節から手根間関節へは21/25肢(84%)で拡散した。拡散したメピバカイン濃度が>0.3mg/Lであったのは、橈骨手根関節に投与後の手根間関節で9/25肢(36%)、遠位指節間関節に投与後のナビキュラー滑液嚢で25/25肢(100%)。メピバカイン濃度>100mg/Lであったのは手根間関節および橈骨手根関節で2/25肢(8%)、遠位指節間関節に投与後のナビキュラー滑液嚢で12/25肢(48%)。メピバカイン濃度>300mg/Lであったのは橈骨手根関節に投与後の手根間関節で1/25肢(4%)、ナビキュラー滑液嚢投与後の遠位指節間関節で11/25肢(44%)であった。
本研究の結果から、これまでに行われたラテックスや関節造影による解剖学的な研究から想定されたよりも、メピバカインは隣り合う滑液嚢間を大きく拡散することが示された。そして、馬の前肢においてよく行われる滑液嚢内麻酔の手技は、これまで報告されていたほど特異的なものではないことが示された。”