種子骨骨折は、競走馬の致命的な骨折のなかで最も多く、特に両軸性(内と外を同時に)骨折すると、球節(第一指節関節)の脱臼につながる危険性があります。
最近発表された研究結果では、両軸性骨折した種子骨とその他の原因で安楽死となった馬の種子骨を比較すると、骨折した種子骨にはある特徴的な所見があることが明らかになりました。それは局所的な軟骨下骨の損傷で、肉眼では褪色、X線では透過性の亢進、組織学的には骨減少症といった所見がみられました。
臨床的に広く使用できるのは単純X線ですが、種子骨は球節の掌/底側に位置しているため、他の骨と重なり観察しづらいのが問題です。しかし、重なりを避けるために角度をつけた撮り下げ/上げをすることで、骨折の診断が可能になることがあります。X線透過性が亢進する部位をある程度見当がつけられれば、その部分を観察するために工夫した撮影方法が編み出せるかもしれません。
“要約
背景
米国内でサラブレッド競走馬における最も多い致命的な損傷は、近位種子骨の骨折である。疫学的、病理学的根拠から、近位種子骨骨折は慢性的なストレスが関連する過程が急激に積み重なることとで起きる可能性があると示唆されている。しかし、種子骨骨折の病態形成についてはほとんどわかっていない。
目的
種子骨骨折に先行する骨の異常の特徴を明らかにすること。
研究デザイン
片側肢の両軸性(内外測)種子骨骨折における、発症馬と非発症馬の2つの症例対照グループについての回顧的調査
方法
競走または調教中に片側肢の両軸性種子骨骨折を発症した(症例)馬または異なる原因で安楽死となった(対照)馬について、死後に種子骨を採取した。骨折した内側種子骨(骨折種子骨)、対側肢の内側種子骨(対側肢種子骨)、種子骨骨折のない馬の内側種子骨(対照種子骨)を症例および対照の検体として採取した。研究1では、形態学的な特徴を明らかにするため、各群で10の種子骨を用いて、症例と対照の間で連続した矢状断面について、肉眼、写真、X線および組織学的に比較した。研究2では、マイクロCTを用いて症例と対照の局所骨量分画やミネラル密度を比較した。
結果
局所的な脱色、X線透過性、骨減少症、組織ミネラル密度低下とそれを囲むように密な海綿骨領域がある、という所見が特徴的な局所軟骨下骨傷害が症例馬のほとんどで見られたが、対照馬ではみられなかった。この軟骨下骨の傷害は、症例馬のほとんどで両側に、体中央部よりやや反軸側にみられた。
主な限界
死後に採取した検体であるため、軟骨下骨の傷害が形成される過程でおこる異常の範囲を表していない可能性がある。外側種子骨について調査しておらず、外側種子骨が両軸性の種子骨骨折の病態にかかわっているか不明である。
結論
反軸側の軟骨下骨傷害は、損傷に先行する病態と一致するため、種子骨骨折に関連している可能性がある。”