育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

手根管腱鞘炎の症状と腱鞘鏡所見(Zetterstromら AJVR2017)

橈骨掌側(尾側)の骨軟骨腫とは

橈骨掌側に形成される骨軟骨腫は、成長板付近の骨軟骨を原因とする外骨症や良性腫瘍と呼ばれることもありますが、明確な定義はありません。

骨軟骨腫の形状は様々で、トゲ状のものからドーム状のものまでさまざまです。これが前腕尾側を走行する屈筋腱に当たって擦れることが障害の原因となります。

腱鞘内で擦れて炎症が起きた場合は出血と腱鞘液の増加を呈し、手根管症候群の原因となります。腱鞘の腫脹、様々な程度の跛行、患肢の屈曲痛を呈すことがあります。

 

文献でわかったこと 

非感染性の手根管腱鞘の腫脹では、橈骨遠位尾側の外骨症が 228頭/242頭、379肢/411肢とほとんどで認められた。

腱鞘液の増量は、主に外骨症の衝突による深屈腱の損傷と関連していたが、その重症度を予期できるものではなかった。

この疾患による運動パフォーマンスへの影響や、手術による影響は解析できず、さらなる研究が必要である。

 

参考文献 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 目的

 手根管腱鞘炎の手術を受けた多頭数の馬の臨床および腱鞘鏡所見を評価し、術前の臨床症状と腱鞘鏡所見の関連があるか明らかにすること。

 

動物

 非感染性の腱鞘炎で、治療および診断の目的で手根管腱鞘鏡手術を行った242頭の馬を対象とした。

 

方法

 2005年1月から2014年7月までの期間で、一つの馬病院において手根管腱鞘鏡手術を行った242頭の馬について、医療記録と腱鞘鏡画像の録画を回顧的調査した。腱鞘鏡の所見は、所見の有無または深屈腱の主観的な重症度グレード分類を行った。ロジスティック回帰解析を用いて、術前の臨床症状と術中の腱鞘鏡所見の相関を調査した。

 

結果

 242頭、411肢について、腱鞘鏡を用いて評価した。外骨症は228頭(379肢)で認められ、多くは複数の山にわかれた。ほとんどの外骨症は、橈骨成長板の痕の尾側縁から内側に位置した。手根管腱鞘内の腱鞘液増量は深屈腱の損傷と関連していた。その他の術前の臨床所見は、腱鞘鏡内の所見を予期するものではなかった。

 

結論と臨床的関連性

 腱鞘液の増量は、手根管腱鞘内の深屈腱の損傷を予期するものであるが、損傷の重症度を予測できるわけではない。腱鞘鏡の所見と運動パフォーマンス減退の関連や、外科的な治療を行うことの評価について明らかにするには、さらなる研究が必要となる。