馬の去勢術の術式のひとつとして、ヘンダーソン式去勢術が考案・実施されています。この方法は、ヘンダーソン式去勢具に精索を挟み込み、これを電動ドリルまたは手動で回転させて捻じ切るという術式です。
※下記リンクは実際の手術写真を含みますので閲覧にはご注意ください。
挫滅鋏よりも簡便で、合併症が少なく、効率的に去勢術ができると考えられています。
広く使用されるようになったこの器具と去勢方法について、その合併症についてまとめた報告がいくつかなされています。
文献でわかったこと
合併症の発生率
252頭を対象とした回顧的調査において、27頭(10.2%)で合併症が認められた。そのうち25頭は軽いもので、内科的治療により制御できた。
この研究の対象となった群に、ヘンダーソン式去勢術以外の方法を用いた症例はないため、直接的な比較はできない。しかし、合併症の発生率は低く、十分安全な方法といえる。
合併症の発生と関連する要素
年齢は合併症の発生と相関があった。3歳以下の若い馬では合併症の発生率は8.3%と低かったのに対し、4歳以上の馬では合併症の発生率は21.3%であった。
合併症の重篤度
重篤な合併症は2頭(0.8%)で認められ、それぞれボツリヌス症と腸管脱出であった。
背景
馬において去勢術は最も多く行われる外科手技のひとつである。ヘンダーソン式去勢器具を用いて去勢したことに関連する合併症の発生率やタイプについてはこれまでに報告がない。
目的
馬の外来診療において、ヘンダーソン式去勢器具を用いて去勢を行った際に遭遇する合併症の発生率およびタイプを明らかにすること。
研究デザイン
回顧的症例集
方法
ヘンダーソン式器具を用いて通常の去勢術を行った馬の医療記録を調査し、合併症の発生を評価した。潜在的なリスク因子と合併症の関係は、 記述統計およびろぎスティック回帰解析を用いて調査した。
結果
本研究に組み込んだ252頭のうち、27頭(10.7%)は術後の合併症を発症した。25頭の合併症は命にかかわるものでなく、内科的な治療に反応した。他の2頭の合併症は、それぞれボツリヌス症および腸管脱出で、結果的に安楽死となった。去勢術時の年齢は、合併症の発生と有意な関連が認められた(ウィルコクソンの符号和検定でP=0.005)。去勢時の年齢が4歳未満と4歳以上で比較すると、4歳以上の馬ではオッズ比2.99、95%信頼区間1.27-7.0、P=0.01であった。
主な限界
本研究は回顧的研究という性質がある。異なる去勢術の方法と直接比較できていない。
結論
ヘンダーソン式の馬去勢器具は、従来の挫滅鋏の代替として受け入れられるものである。合併症の発生率は3歳以下の若い馬では低く(8.3%)、4歳以上の馬ではそれよりも高かった(21.3%)。しかし、全ての年齢の馬において、重篤な合併症の発生率は0.8%と非常に低かった。