馬の上気道疾患は、気道が閉塞することにより運動時の換気が低下し、プアパフォーマンスに繋がると考えられています。
近年、運動時内視鏡検査が行われるようになり、上気道の様々な動的異常が判明しています。その中のひとつが輪状気管靱帯の動的な虚脱です。
これは、喉頭を形成する輪状軟骨とそれに続く気管軟骨をつなぐ靱帯が動的に虚脱することにより、気道が狭まってしまう病態です。この動的な虚脱について、診断と治療についてまとめた小頭数の文献があります。
この疾患は、2歳の調教早期にみられることがある、まれな上気道閉塞の原因です。しかし、調教に適応する、上気道の炎症が解消することによって症状が解消することがあると報告されています。
一方で、成馬では内科的治療に反応しないことがあり、この場合には手術を行うことで症状が解消する可能性があることが示されています。
参考文献
目的
輪状気管靱帯の動的虚脱の診断と罹患馬の治療と成績について記述すること。
研究デザイン
回顧的症例研究
動物
サラブレッド8頭
方法
600頭でオーバーグラウンド内視鏡検査を行った。このうち、8頭のサラブレッドで輪状気管靱帯の動的虚脱を認めた。5頭は2歳馬で、調教早期であった。2頭は成馬でフルトレーニングを行っていた。運動時に輪状気管靱帯が全周で虚脱している場合に輪状気管靱帯の虚脱と診断した。7頭は再検査を実施した。2頭は内科的治療に反応せず、外科的な処置を行った。
結果
2歳馬の5頭は全頭で輪状気管靱帯の動的虚脱に加えて複数の上気道異常が認められた。上気道の炎症に対する治療を行った後、輪状気管靱帯の動的虚脱は解消した。2頭の成馬では併発する呼吸器の異常は認められなかった。外科的処置として輪状気管靱帯のスペースを再建し重層術を行った2頭は、症状が解消した。
結論
サラブレッド競走馬において、輪状気管靱帯の動的虚脱はまれな上気道閉塞の原因である。調教に適応するか気道内の炎症が解消することで症状が解消することがある。しかし、輪状気管靱帯の動的虚脱が持続する場合には、輪状気管靱帯のスペースを再建し重層術を行うことで臨床症状が解消する可能性がある。