運動時内視鏡でしか診断できない上気道閉塞の疾患のひとつに、動的な咽頭虚脱があります。
経験的には安静時内視鏡検査において鼻腔閉塞により吸気圧を高めることで背腹方向の咽頭壁の不安定がみられることがあります。しかし、トップスピードでの走行時と比べて再現度は低いため、診断には運動時内視鏡が不可欠です。
これは、咽頭壁が吸気圧に耐えられず潰れてしまう(虚脱する)ことにより、気道を塞ぐという病態です。これにより、運動時の呼吸によるガス交換能が損なわれ、パフォーマンス低下につながります。
この文献は、高速トレッドミル運動中に内視鏡検査を行い、動的な咽頭虚脱を診断した症例についての回顧的研究です。
これによると、プアパフォーマンスを主訴に来院した828頭のうち、49頭(6%)で咽頭虚脱がみとめられました。プアパフォーマンスの原因としては稀な疾患のようです。
トレッドミル運動中に動脈血液を採取し、血液ガス分析をしたところ、30頭中11頭で酸素分圧の低下、8頭で二酸化炭素分圧の上昇が認められました。このことから、ガス交換能にも明らかな影響があることが示されました。
咽頭虚脱の程度は、虚脱した咽頭壁の数を基準にG0-4で分類されていました。
また、気道閉塞の重症度は、声門裂の面積がどの程度隠されているかを主観的に評価して分類していました。
咽頭虚脱の程度はG3が最も多く、59%を占めました。このうち気道閉塞が30%の症例は9頭、50%の閉塞が11頭、完全閉塞に近い症例が2頭認められました。このグレードの咽頭虚脱を認めた症例では、診断前後で比較すると診断後の1走あたり獲得賞金が有意に低いことが明らかとなりました。
また、4歳以上の馬ではさらに有意に1走あたりの獲得賞金が低く、運動能力が回復する予後は悪いことが示されました。
参考文献
研究を実施した理由
動的な咽頭虚脱は競走馬にみられ、これはキャリアを終わらせる疾患になりうる。
目的
咽頭虚脱の特徴とグレード分類を記述し、咽頭虚脱が運動パフォーマンスに与える影響を明らかにすること。
方法
828頭の医療記録を回顧し、49頭(6%)で原発性の咽頭虚脱が認められた。運動時の内視鏡検査動画を見返した。動画から、咽頭虚脱の程度を0-4でグレード分類し、上気道閉塞の重症度を分類した。咽頭虚脱を診断する前後で、1走あたり獲得賞金と、パフォーマンス指数を比較した。咽頭虚脱の馬で運動時の動脈血液ガス分析が可能であった馬も回顧的に調査した。
結果
症例馬は、35頭(80%)がサラブレッド、9頭(20%)がスタンダードブレッドであった。32頭(73%)で運動時の上気道の異常音が聴取された。咽頭虚脱のグレード分類は、G1が4頭(9%)、G2が8頭(18%)、G3が26頭(59%)、G4が6頭(14%)であった。気道閉塞の程度から、軽度が7頭(16%)、低~中程度が18頭(41%)、中程度~重度が14頭(32%)であった。血液ガス分析が入手できた30頭のうち、 11頭は酸素分圧の異常な低下、8頭は二酸化炭素分圧の異常な上昇が認められた。4歳以上の馬では、診断前後の比較で診断後の方が明らかに1走あたりの獲得賞金は減少した(P=0.003)。G3の咽頭虚脱では、診断後の方が1走あたり獲得賞金は少なかった(P=0.03)。パフォーマンス指数に診断前後で明らかな差は認められなかった。
結論
一般的に来院する割合に比べると、咽頭虚脱はスタンダードブレッドよりもサラブレッドに多く、メスよりもオスで多い傾向があった。咽頭虚脱の馬では動脈血の酸素化が低下している。4歳以上の馬における咽頭虚脱の診断後の競走成績から、高齢馬で競走成績を維持できる予後はよくないことが示唆された。
潜在的関連性
この研究では、動的な咽頭虚脱の分類システムを提示した。また、4歳以上で咽頭虚脱と診断されたり、G3の咽頭虚脱では、もとのレベルのパフォーマンスに復帰する予後は悪いことが示唆された。