肘関節は蝶番関節となっており、横方向の安定性は非常に高いです。それには関節の構造だけでなく、両側の側副靱帯が大きな役割を果たしています。
馬の肘関節側副靱帯損傷はまれな疾患ですが、重度の跛行を示し、負重困難となることもあります。
競技馬の4頭における症例報告では、この疾患は急性跛行を発症して気付かれるものの、病態の本質は慢性的なものであることが示唆されています。これは、診断した時点で骨関節炎や骨付着部炎が起きていることが根拠となっています。また、消炎剤の投与と十分な休養(中央値3ヵ月)を行うことで跛行は消失し、中央値6ヵ月でもとの運動に復帰できることが示されています。
参考文献
症例
肘関節内側側副靱帯の靱帯損傷および骨付着部炎を認めた4頭について調査した。
臨床所見
4頭は全て急性の重度な片側性の前肢跛行を示し、触診にて前肢の上部に疼痛を認めた。2頭は腋窩部に腫脹を認めた。腕節以下の診断麻酔で跛行が全く改善せず、肘関節の関節麻酔では4頭中1頭が軽微な改善を認めた。上腕骨顆の骨反応は4頭で、橈骨粗面の骨付着部炎および内側側副靱帯の線状石灰沈着は2頭で認められた。1頭は肘関節の軽度な骨関節炎、3頭は橈骨橈側面に骨棘を認めた。 全頭で急性発症の跛行を原因とした跛行で検査を行ったが、画像診断では全て慢性の異常所見が認められた。超音波検査では、骨表面の異常な輪郭と、橈骨粗面の付着部において短内側側副靱帯の骨付着部炎および靱帯炎が明らかとなった。2頭は対側肢の肘関節X線検査においても、重症度は低いものの同様の病変が認められた。
治療と成績
全頭でフェニルブタゾン投与と休養が行われた。跛行が消失するまでの期間は2-4ヵ月:中央値3ヵ月で、もとの運動に復帰するまでには3-8ヵ月:中央値6ヵ月であった。
結論と臨床的関連性
この研究から、肘の内側側副靱帯の骨付着部炎および靱帯炎を発症した競技馬は、適切な治療後には元の運動に復帰する予後は良好であると示唆された。