競走馬において、骨盤骨折は診断が難しい疾患の一つです。海外では核シンチグラフィ検査が普及しており、反応が強く出る部位において骨折が強く疑われます。骨盤骨折は、経皮もしくは経直腸超音波検査によって、骨のギャップを描出することで診断できます。また、特定の撮影方法を用いればX線検査でも診断することが可能です。
骨折の全容をつかむにはCT検査が最も有効と思われますが、馬の骨盤全体をおさめられる大きさのガントリはありません。さらに大きな要因は、全身麻酔からの起立覚醒時に、骨折がさらに悪化して予後不良となってしまうケースがあることです。これらの要因から、全身麻酔下での診断は現実的な選択肢にはなりません。
オーストラリアにおけるサラブレッド競走馬の骨盤骨折では、跛行さえすぐ良化すれば競走復帰の予後は良好であることが示されています。
腸骨翼の小さな骨折であれば予後は非常に良好であることは容易に想像がつきますが、複数か所の骨折でも差がないようです。しかし、症例数は少なく、比較するための分類・条件も、さらに詳しく検討する必要がありそうです。
参考文献
目的
シンチグラフィ検査により骨盤骨折と同定した馬における、変位の有無によるサラブレッド競走馬の長期的な予後を調査すること
デザイン
回顧的症例解析
方法
メルボルン大学馬病院に来院し、シンチグラフィ検査にて骨盤骨折と同定した31頭のサラブレット競走馬の医療記録を回顧的に調査した。超音波およびX線画像所見に基づき、骨盤骨折の部位と変位の有無を明らかにした。最低でも24ヵ月の追跡調査期間でそれぞれの馬の競走成績を解析し、骨折のタイプと長期的な競走の予後の相関を明らかにした。結果は中央値およびその範囲を表した。
結果
骨折箇所は1か所が22頭、2か所が9頭であった。部位は腸骨翼が最も多く12頭であった。どこかの部位で変位のある骨盤骨折は12頭、24ヵ月以内の出走数は中央値0.5(0-13)回で、変位のない骨盤骨折は19頭、24カ月以内の出走数は中央値7(0-24)回(P=0.037)で、変位があるほうが出走数がすくなかった。しかし、獲得賞金には有意差がなく(P=0.080 )、変位ありで中央値0(0-123,250)A$、変位ありで中央値14,440(0-325,500)A$であった。変位の認められた骨折4頭(33%)は、重度の跛行が持続し人道的な理由で安楽死となった。もしこの4頭を解析から除外した場合、変位の有無でパフォーマンスの変数には有意差がなかった。
結論骨盤骨折の発生後すぐの期間を生き抜くことができれば、変位していてもしていなくても、サラブレッド競走馬の競走の予後は良好である。